まめ知識

トラックボールって? 編

まずはトラックボールとはどんな性質のものなのか、です。


トラックボールって何?

トラックボール
トラックボール

トラックボールとは、ボールを転がすことで PC上のマウスポインタを動作させるポインティングデバイスです。

ポインティングデバイスにはタブレットのように絶対座標を入力するものと、 マウスのように相対座標を入力するものがあり、 トラックボールはマウスとおなじ相対座標を入力するデバイスです。

そのため、マウスとニッチェを食い合う関係になりやすく、 現在は縄張りを大きくマウスに譲る、絶滅危惧種と成り果てています。

トラックボールとマウスの違い

マウスやトラックボールは、現在位置からの移動方向と移動量、 すなわちベクトル入力を行う相対座標系の入力デバイスです。

マウス・トラックボール共、移動方向はそのままデバイスの入力方向で、 感覚的にあまり差がないのですが、 この双方は移動量入力に於いて大きな差があります。 それは、移動量入力に慣性を利用するかです。

マウスの場合、マウスをどれだけ動かしたか = ポインタがどれだけ動くか になります。 基本的にマウスは机上でのマウスの動きがそのままデスクトップ上でのカーソルの動きに反映されるため、 直感的に理解しやすく、カーソルのコントロールも容易です。

一方トラックボールはユーザが「ボールにどれだけの運動エネルギーを与えるか」で移動量を入力し、 その運動エネルギーで「実際にどれだけボールが回転したか」が、カーソルの移動量になります。 このユーザの入力とトラックボールの出力の間にあるモノ ――「ボールに働く慣性」を操作に利用できるのがトラックボールの特徴です。

この入力に慣性を用いるか否かが マウスとトラックボールを特徴付ける大きな違いで、 それぞれの機器のメリット・デメリットを生み出す源となっています。

トラックボールは 慣性を利用するおかげで、大きなカーソル移動も楽に行え、 それでいて小さなカーソル移動もストレスなくできる、 つまり移動量に対して自在性を誇ります。 一方のマウスは、慣性を操作に利用しないため、 逆に慣性に振り回されずカーソルの移動方向を細かく正確に制御することができる、 つまり移動方向に対して自在性を有します。

マウスとトラックボールの詳しい比較については、 以下をご参照ください。

トラックボールの魅力って?

疲れにくい、場所を取らないなど、 効能的・機能的なアピールポイントが魅力として語られることの多いトラックボールですが、 猫は、もっと人の感性に訴える惹きつけるもの・・、以下の2点こそトラックボールの魅力の本質だと思います。

天然の加速機能

前段でも述べたとおり、トラックボールは慣性を「ブースタ」として 利用できるため、

というメリットがあります。

ボールに与える慣性、つまり転がり出させる際に加える勢いで、 ブースト量が代わり、 「じゃじゃ馬だけど大きく早く動く」と「非力だけど小回りが効く」といった操作性の調節ができるのです。

いわば天然の「カーソルの加速機能」こそが、 トラックボール最大の武器であり、しかもこの調節機能は無段階かつ自由にコントロール可能です。

操作の快楽性

これだけでも非常に強力な魅力なのですが、 それ以上に魅力的な特徴として トラックボールは操作するのがとっても気持ちよいことがあげられます。

どうも人間は本能的に玉を転がすのが好きらしく、 トラックボールを導入すると、意味も無くポインタを動かしている自分に気が付きます。 コロコロと動かしているだけで、楽しくって気持ちよくって仕方がないのです。

もちろんマウスでも「気持ち良いマウス」はあるのですが、 それは「動かすのが気持ちよい」というよりは「握るのが気持ちよい」類です。 ところがトラックボールは「ポインタ操作自身が気持ちよい」のです。

トラックボールのカーソル操作が気持ちよいことがどんな影響を及ぼすかというと、 積極的にマウスカーソルを動かすようになることです。 特に大きく動かしたほうが気持ちよさも倍増なので、 画面端のスクロールバーにカーソルを動かすのだって億劫になりません。


操作すればするほどストレスが発散していく感覚は、トラックボールに麻薬性をもたらします。

この「操作自身が気持ちいい」環境に汚染されると、 たまにマウスをつかうとマウスでポインタを動かすのが拷問のように感じられ、ビックリします。 (うーん、マウスだけの時はそんなこと気にもならなかったのに・・・。)

トラックボールの弱点

操作の気持ちよさにおいて、他のポインティングデバイスを引き離し 「圧倒的じゃないか」なトラックボールですが、 弱点も多いです。

勢い余って・・

トラックボールの機能的な弱点は、だいたい以下のようなものでしょう。

「物を動かす」といったマウスに比べ、 ボールをうまく運転する技量が必要なトラックボールは 直感的に理解しにくく、使いこなしに慣れを必要とします。 逆に言えば慣れればよいだけなのですが、 ちょっと触ってみて「なんなのよ、コレ」になりがちなのは、 セールス的には少々痛い欠点です。

軌跡の入力、つまりお絵かきの事ですが、やはり慣性を利用する特性が欠点に働いてしまい、 「車は急に止まれない」の原理で、うまく入力するのは根本的に難しいです。

ドラッグがしにくい点については、 指の一部が移動、一部がボタンホールドというのが難しいからなのですが、 ここは各トラックボールメーカの腕の見せ所で 形状の工夫により気にならなかったり、 少なくとも慣れでカバーできる範囲にとどめるように設計されてたりと、 「マウスより難しいことが多い」だけで、「ドラッグできない」わけではありません。

最大の欠点

以上のように細かい欠点はあるものの それはメリットの裏返し、納得のいく対価です。 しかしトラックボールには以上の欠点を全て束ねたよりももっと強力な欠点があるのです。 それは「デファクト・スタンダードでない」 ことです。

あらゆるアプリケーションがUIにマウスを想定しているため、 PCの環境はマウス アウェーです。敵地での戦いは厳しいものです。

コレばっかりはトラックボールのせいではないのですけど。

トラックボールの種類

市場を見渡すと実にいろんな形状のトラックボールが売られています。

マウスがある程度形状のパターンが出来上がっているのに対し、 個性的な製品が多いトラックボールは いろいろなトラックボールを使う楽しみがあるともいえるし、 気軽に乗り換えるのはちょっと・・ともいえます。

そんな個性的なトラックボールも大きく分けて次の3種類に分類されます。

人差し指型

人差し指型 トラックボール
人差し指型 トラックボール

人差し指というか、親指以外の指で操作するものです。 主役になるのは人差し指・中指が多いですが、 人差し指側・小指側、指先側・つけ根側を問わずに 指全体でころころするのが非常に気持ちよいスタイルです。

人差し指型はボール操作がしやすいのが最大のメリットですが、 ドラッグのような、ボタンを押しつつボールを動かすのを苦手としています。 なるべく指をフリーにするため、 人差し指型トラックボールはボタンを指先ではなく指付け根側で押すデザインも多いです。

人差し指型はトラックボールの気持ちよさをもっとも享受しやすく、 入力デバイスに実用性以上の何かを求める方には大変オススメです。 またその構造により大玉化がしやすいので、各社のフラッグシップモデルは人差し指型であることが多いです。

ただ、手のひらごと動かして操作するため、 手首の高さに気を付けないと、キーボードと同じく腱鞘炎への危険を抱えます。 人差し指トラックボールの活躍場所は、原則的にマウスと同じ「机と椅子」のある環境 限定です。

親指型

親指型 トラックボール
親指型 トラックボール

ボール操作を親指に任せ、他の指はボタン操作を行うトラックボールです。 ボール操作とボタン操作を分業することができるのが最大の特徴です。

親指型はボタン操作をマウス的に作れることが特徴で、 マウスから移行する時 頭がこんがりがりにくいと言われます (似すぎているから紛らわしくってこんがらがる、という声もありますが・・・(^^;)) 親指型であればほぼ無条件にドラッグはしやすいと思って良いでしょう。

また、方向自在性の高い親指をカーソル入力につかうため、 手のひらを固定していても動かしやすく、 そのため「設置位置に五月蠅くない」という利点を持ちます。 手首が曲がってしまうような姿勢でも 手のひらを動かさない操作性のおかげで、 操球時にさらなる無理をかけないで済むからです。

よって、「床生活でトラックボールを使いたい」という方や、 「手の甲や手首が痛い!」という腱鞘炎ぎみの方に親指型がオススメです。

逆に親指型のデメリットは親指をカーソル操作につかうため、 親指が器用でなければならないこと、そして親指に負担が掛かることです。 親指の器用さはまず問題にならないと思いますが、 親指の負荷の方はすこし深刻で、親指に脆弱性を抱えている方には向いていません。

あまり大きな玉をつかうと親指を大きく動かさねばならなくなり負担が増してしまうため、 人差し指型と違い、一概にボールが大きいほうが良いとはいえません。 そのため、親指型ハイエンド機はなかなか見かけることがありません。

また、人差し指型はシンメトリカル デザインも多く左手使用でも困ることはありませんが、 親指型はどうしても左右非対称になってしまうため、左手での使用は望めません。

もう少しトラックボール市場が広ければ違うのでしょうが、ちょっと悲しくなってしまいます。

ハンディ型

ハンディ型 トラックボール
ハンディ型 トラックボール

ポインティングデバイスを持って使うこのスタイルはマウスと完全に異なるニッチェで、 ほぼトラックボールの独壇場です。

使用するシチュエーションはプレゼンテーションなどと説明されますが、 ごろ寝しながらノートパソコンで至福のブラウジング・・なぁんて ケースで絶大な威力を発揮します。

とはいえ、ニッチェ商売になるので、市場自体はあまり大きくない様子です。