トラックボール個別面談

Microsoft Trackball Explorer  (Trackball Explorer 2.0)

Microsoft Trackball Explorer 2.0
メーカー Microsoft
ボタン数 5ボタン
ホイール 1ホイール
エンコーダー 光学式
ボール支持 スチール小球による3点支持
ボール径 40mm
コネクタ PS/2・USB

トラックボールの歴史の黄昏

2003年から作り始めたこの猫のトラックボールルームだけど、 たった 4年のこのページの歴史の中でも、今のトラックボールを巡る状況は最悪です。 もう5年以上新機種を出していない Logitech、 ラインナップを大幅に整理してしまった Kengington、 なにより、トラックボールから完全に撤退してしまった Microsoft。 まるでトラックボール最後の日の5分前と言った様相です。

Microsoft のトラックボール撤退は、想像ですが、 おそらく既に痛んでいた金型での生産続行は難しく、しかし後継の 新機種を開発してもペイするだけの市場を確保できないとの判断でしょう。 ホントかどうか解りませんが、皮肉なことに日本では好調だったけれど、世界市場で売れない物は 作らない、という話も聞きます。

現実問題として、Trackball Explorer の不在は深刻です。 なぜなら、ホイールが付いていて、手頃な値段で、人差し指操作な 使いやすいトラックボールは、Trackball Explorer しか無かったから。 だから、トラックボールな世界への入り口はいきなり閉ざされてしまって あとはそこに取り伸されたユーザだけが、 トラックボールを欲するという悪夢のような状況になってしまったのでした。 ――ど、どうしよう。

撤退から一転、まさかの新型

しかし、そこは ユーザー・エクスペリエンスを大切にする天下の Microsoftです、 トラックボールユーザの Trackball Explorer 復活の強い要望を無視できるハズがありません。 「トラックボールからの撤退」から心機一転、満を持して発表されたのが、 この Trackball Explorer 2.0 です。

この 2代目 Trackball Explorer、 基本的な構成、機能はそのままに一回り小型化されました。 Microsoftによると、メインユーザである日本人の意見を取り入れての 小型化だそうです。 前のモデルでも使ってみれば決して手に余ることはありませんが、 視覚的小ささが売り上げにつながり安いということもあるのでしょう。 日本人はちっちゃいってことは良いことだの民族です。

残念なのはチルトホイールの非搭載と、 パターン印刷の無いボールの採用が実現されなかったこと。 てっきりチルトホイールは載ってくると思っていただけに少々以外です。

ただしボールは、確かに Kensington や サンワでは ボールにパターンのない物が登場しているものの、 Orbit Opticalなどの一部モデルでは、 ロットによってはボールの模様ムラが発生し、動作不良を起こした例もあり、 安定した生産を行うためにも実績のあるパターン付ボールを選択したのかもしれません。 Logitechに比べてMicrosoftのパターンは生理的嫌悪感を引き起こし憎いですし、 これはこれでアリでしょう。

なにより Microsoft が凄いのは、 この仕様のトラックボールを出してきたこと。 Kensington の ExpertMouse や、Logitech の Marble Mouse も良いトラックボールなのですが、 消費者の――特にトラックボールを使ってみたいけど、まだ使ったことがない人に対して 心理的な壁のある商品です。

ホイール付きであること、最低限3ボタン、できれば5ボタン以上であること、 購入を躊躇したくなるような奇抜な形状でないこと、値段が高すぎないこと。 これらは大事な「性能」であり、Microsoft はその大事さを 先代 Trackball Explorer 1.0 から 熟知していました。

加えて2代目では、大きすぎないという重要なファクターもクリアします。 大きなポインティングデバイスは使いにくそうというイメージをもたらします。 そういった意味でこの見た目・デザインは、 トラックボールを始めたいと言う人にとって、もっとも買いやすい 魅力的な機種だと言えます。

慣れが必要なポインタ挙動

さて、ここまでは良いことづくめの2代目でしたが、 若干気になる点がないでもありません。

Trackball Explorer 2.0 でのカーソル移動は、少々変わった挙動をします。 天地方向に比べて左右方向のほうが約2倍大きく動くのです。 また、そのせいか上下方向へ動かす際軌跡な安定しない、何とも妙な感触を受けます。 む、むぅ、変だ。

それについて Microsoft のサポートセンタに問い合わせたところ 「その挙動は仕様だ」とのなんともご無体なご返答。 曰く、ディスプレイは横長になっているため、 横方向の移動量を長く設定してあるとのこと。 なるほど、一理あります。

また、上下方向へ動かすと、まるでドングリを転がしたような不安定な 挙動を魅せる件については、 「我々はユーザ・エクスペリエンスを大切にしている。 幼い頃、自転車に初めて乗ったときは思うように走れずすぐに転んでしまっただろう。 しかし乗りこなせたときの感動は格別だったハズだ。 それと同様の体験をMicrosoftは大切に考えている」とのお答え。 また、「これらの挙動はソフトウェアではなくハードウェア的に実現している。 最新の Vista はもちろんWindows 95 であろうとも、同様の体験を得ることが出来る」 とのこと。う〜む、これもやっぱり仕様なのですね。

でもねぇ・・・、やっぱり使いにくいんじゃない? ――と、思っていた猫ですが、自分でもビックリなことに意外に早く慣れました。 人間の順応力は偉大です。コツはボール頂点を撫でるのではなく、 ボールのやや左側面を人差し指の右側面で撫でるように転がすこと。 慣れれば使いこなせないことはありません。 使いこなせるようになったときは、なるほどとても愛着を感じるようになりました。 ・・・きっと

首の皮一枚でつながったトラックボール界

正直な感想を言えば、奇抜で独創的なボール挙動や、 以前から指摘されていたステンレス支持球の耐久性問題等、 気になる面も無いわけではありません。

種を明かせば、 本機は某サプライメーカより ODM 供給されており、 純粋な Microsoft 製品とは言えません。(他のデバイスもOEM供給だけど、 設計まで他社なのはおそらく初めてです)

しかし、本機が(というよりも Trackball Explorerが)存続すると言うことは、 非常に意味があることです。 Microsoft と言う一流のブランド、そして買いやすい仕様。 これらがそろって初めてトラックボール界が安定して発展するんだなぁと、 身にしみて, 本当に身にしみて感じた一年でした。

若干不本意なカタチとはいえ 次なる機種に繋げるためにも「トラックボールは案外売れる」という実績を なんとしても作らなければなりません。 そのためには鬼になろう――そう決心する三猫です。

各部の詳細

表 上から。

Marble Mouse や ExpertMouse の様な美しさはない物の、 シンプルで非常に親しみの沸くデザインです。

本体の小型化に伴い、残念ながらボールも若干小さくなり、 人差し指トラックボールのスタンダードともいえる 40mm径になってしまいましたが、特に操球感が劣る物ではありません。
後ろ 手前から。

ここ一年のMicrosoftの撤退騒動を思い起こすと、 Microsoft のロゴと インテリアイのマークがちょっと感動です。

インテリアイロゴなので残念ながらレーザじゃないのです。 旧Trackball Explorer ではロゴだけ赤で印刷されていたのですが、 単色になったのはコストダウンということでしょう。(Trackball Optical も単色刷りでしたし)
右側面 左側面から。 ボタンの部分は本体部分より荒くて反射の強いシルバーで塗装されていて、 微妙なアクセントになっています。
左側面 左側面から。
前 前から見た場合、他の方向とは違い まったくグンニャリしていない整った表情を覗かせます。
裏 背面です。

右手用エルゴトラックボールにしてはめずらしく 「土踏まず」がありません。
ラベル ラベルです。「Trackball Explorer 2.0 PS2/USB Compatible」の文字に ジーンとします。
TrackballExplorerと比較-トップ TrackballExplorerと比較-斜め後ろ 先代MS Trackball Explorer 1.0と比較してみました。 比べてみました。

よく「そのまま小型化したようだ」と言われますが、 こうしてみると確かに「人差し指ボール」「マウスのようなレイアウトの左ボタンとホイール」 といった共通項はあるものの、そのライン取りは意外なほどちがうのが解ります。

特に斜め後ろからみたとき、大きく手を右に傾かさせるTrackball Explorerに比べ 本機は意外なほど箱形です。MSのトラックボールは手に余るくらいおおきな曲面に手を置かせるデザインがおおいですが、 本機はすっぽりと手の中に収まる感じがして、日本人にはかえって好印象なのではないでしょうか。

ただ、形状の問題とは別にボタンやボールのフィーリングは Trackball Exploror (というかMicrosoft全般)によく似た印象を受けます。
左ボタン 先代そのままの 左側のボタン&ホイールです。

本機のボタンは遊びが大きいこと、全てのボタンがタクトスイッチであることから、 なんだかパコパコとした頼りないものを感じます。 実用上問題はありませんが 先代同様感触を求めてはいけないたぐいのものです。

ホイールはチルトホイールではない、旧Microsoft系の感触。 また、右ボタンも先代と同じように左側ボタン群の上側になっていて、 要望の多かった薬指側への移動はありませんでした。残念。
ボール こちらは結構別物な右側ボタンです。

上側のボタンはやっぱりいまいちな感触ですが、真下にある光学センサを避けるため ウルトラCでスイッチを押していて、それを考えればよく頑張ってる方でしょう。 問題は下側のボタンで、フニャフニャな他のボタンに比べこのボタンは堅く、 真横に押し込むこと、力の弱い小指で使うことを考えるとちょっと使い辛いです。

ボールはMicrosoftおなじみの濃淡二重のリング模様が印刷されています。
ボールを外す ボールを外します。青はホイールの回転検出…ではなく たんなる飾りです。(^^;

ボールのセンサは残念ながらレーザじゃありません。 これはボールをハズしたとき万が一レーザがONになると 目を直撃するおそれがあるから・・・とも考えられますが、 どちらかというと 本機が純粋な新規開発じゃないところが 原因じゃないかしら。

支持球はステンレス小球です。
光学センサーの位置 こんどはカップを横から見てみます。 ごらんの通り本機のセンサはボールを真横から見る位置にあります。
う、うーむぅ・・・。ここだけは直して欲しかったわ
筐体オープン 筐体オープンです。 フラットケーブルが筐体下面に固定された基板と上面に固定された基板を結んでいるため注意が必要です。

こんな所も先代を連想させます。
筐体上面裏 筐体裏側です。

光学センサや左ボタンの部品がゴッチャリと詰め込まれています。
左タクトスイッチ基板 左ボタン & ホイールユニットです。

ホイールクリックを含めた全てのボタンがタクトスイッチで担っています。
左タクトスイッチの押され方 筐体に組み込まれるとこんな感じ。

これだけのスペースがあるなら 少なくても下側のボタンはマイクロスイッチがおけるんじゃないかしら ・・・などと猫は考えてしまいますが、 今では Microsoftマウスもほとんどがタクトスイッチになってしまっているのを考えると、 スペースの問題よりコストパフォーマンスや静音性なのでしょうね。
左ボタンの部品 ボタン部分です。筐体に固定される部分とボタン面の間は補足、 これもまたクリック時のふにゃふにゃとした感触に一役買っていそうです。

しかし、成形した後に熱で曲げたのでしょうか? 摩訶不思議な3次元形状をしています。
左ボタンの部品 裏 裏から。 スイッチを押すための棒が大きく伸びています。

素人考えではちょっと無理しすぎと思ってしまいますが、 先代もずいぶん汚いもとい外殻に現物あわせな 設計だったですからね〜・・(^^;
右タクトスイッチ 右ボタン郡のスイッチです。こちらは筐体底面側の基板に実装されています。

下側のボタンはともかく、上側のボタンは距離があること、 間に光学センサー分のクリアランスを取らなければならないことから、 ボタン面とスイッチを繋ぐための バー部品が設けられています。
右スイッチの部品 バーをハズしたところ。

このバーはスプリングでちゃんと押し戻る様になっています。 (これはボタン面と筐体の接続の首が細すぎて板バネの働きをしてくれないからでしょうか?)

シンプルじゃない弊害とかそういう話は置いておいて、 なんだか「男の子回路」を刺激しそうなギミックで、猫は好きです。
ボール受け ボール受けです。

これだけみると、親指トラックボールの部品みたいです(笑)
光学センサ 光学センサーは アジレント・テクノロジー社の ADNS-2051 (PDF)です。

本センサは光学式マウスで広く使われているモノで、 Kensingtonのダイヤモンドアイ テクノロジもこのチップになっています。 なのでパターン印刷ボールは、パターンなしに出来なかったのではなくて、 安全策なのでしょう。
光学センサ基板 基板を裏側から。

リファレンス通りの作りです。
筐体上側 ようやく部品が無くなった筐体上面カバーです。
筐体下側 筐体下面は基板が一つあるのみです。
メイン基板 メイン基板です。
表側になる面にはタクトスイッチとコネクタ程度。
メイン基板裏 裏側にはコントローラチップが乗っています。
コントローラチップ コントローラ・チップです。
大きさ比較 大きさの比較です。

比較的コンパクト目な本機ですが、マウスと比べるとやはりそれなりの大きさがあります。
ボールの大きさ ボールとドリキャスのVMとの比較です。
グラビア トラックボールに詳しい方は既にお気づきかと思いますが、 本機は いわく付きなサ●ワ某なサプライメーカーの ODM品です。

既に縮小しきったトラックボール市場では、残念ながら、 一から金型を起こすような新機種開発は既にペイしなくなったと言うことでしょう。 そういう状況だからこそ、 Microsoft は一度撤退という道を選んだのでしょうが、 たとえ自社開発品でなくとも ユーザの声に答えて 再びトラックボールをリリースした Microsoft には頭が下がる重いです。

この Microsoft の思いを無駄にしないためにも 一人10個買いは当然でしょう。さぁ、どんどん配っちゃいましょうね!

<総合評価>

繰球の気持ちよさ ステンレス球支持特有の滑らかだけど粘る感じです。
回り出しの滑らかさ ボールは滑らかです。
回転中の滑らかさ ボールは滑らかです。
ドラッグのしやすさ 押しながらボールを回すのが苦にならないと言う意味では良好です。
対腱鞘炎 形状的には問題はないと思います。
コストパフォーマンス スペック比で考えると結構お得です。
三猫のおすすめ度 ★★★★★(トラックボールの未来への期待補正あり)
とにかく、これが売れてくれないと、また去年の悪夢のような状況に逆戻りです。 とやかく、つべこべ言わずに買いやがれです――!!