トラックボール個別面談

Logitech ST-65UPi (TrackMan Wheel :ST-65UPi)

Logitech ST-65UPi
メーカー Logitech (Logicool)
ボタン数 3ボタン
ホイール 有り
エンコーダー 光学式
ボール支持 アルミナセラミック球による3点支持(推測)
ボール径 34mm
コネクタ PS/2・USB

初めての親指コロコロ

据置トラックボールは「人差し指型」と「親指型」に分かれます。 人差し指型は、いろんなメーカのいろんなランクの製品が 揃っていて、狭い市場ながらも楽しい我が家なのですが、 親指型はラインナップにないメーカもあり、 リリースしてくれているメーカも基本的に1機種のみと、 いよいよ絶滅危惧種になってしまっています。

そんな状況なので、現行で親指トラックボールを模索するなら 事実上LogitechのTrackMan Wheel系と、MicrosoftのTrackball Opticalの 2択になってしまいます。 うーん、これは・・・、既に競争原理が働かないような気がします。

猫もご多分に漏れず この2択にはまってしまい、 ちょっとだけ悩んだ末、 キュッと引き締まった感じのするLogitech TrackManの、 有線モデルを選択しました。
(TrackMan Wheelには同型ボディで2種、ワイヤレスな「CT-64UPi」と有線の「ST-65UPi」があります。)

既に親指トラックボールを買うと決めたときから 殆ど流れ作業で決まってしまった本機ですが、その使い心地ははてさて・・・。

芸術チックなデザイン

猫が数無い親指トラックボールから本機を選んだ理由は 一重にデザインです。

手の中にすっぽり収まる大きさと、 プラスチックなのだけれどプラスチックならではの高級感を引き出した デザインはLogitechのお家芸、 握ってみたときのギュッと凝縮されたような感じが とても嬉しいトラックボールです。

親指トラックボールというと、手形そのまんまのようなデザインが多いなか、 本機のデザインは半球な石をノミで割っていって形作ったような 面白いデザインをしています。

曲面のなかに直線のエッジのあるメリハリの効いたデザインは、 手で触れる度になんとも言えない心地よさを感じます。 単に曲線だけの安っぽいエルゴニズムには辟易としてしまう猫ですが、 このピシッと通った直線と、手にやさしく会わせてくれる曲面は、 握ってみたとき、おっかないお父さんと優しいお母さんの2人3脚のような 本当の優しさを感じてしまいます。

特に人差し指〜小指周りはエッジを効かせた段差を設けて、 指を置く場所を教えてくれるのですが、そこに置くことを決して強制したりはしません。

「エルゴデザイン」の多くが 指の置く位置に深いくぼみを掘って そこに指を置くことを強制する中、 本機の「教えれど強制せず」なスタンスはなんとも心地良く感じます。 それでいて、「中指の段」が作り出す指掛かりの良さや 小指側のゴムグリップなどの目立たないけど確かな支援が なんとも心憎いのよね。

本機から受ける道具として出しゃばらない、相棒に徹してくれる感覚は 非常に洗練された本物の「エルゴノミック・デザイン」を感じさせます。

エルゴという観点でもかなり洗練されたものを感じる一方 本機のデザインはオブジェとしても面白いもので、 眺める角度によって豊かに表情を変えるデザインは、 本レビューのために写真を撮るのを猫はとても楽しく思えました。

一見なんでもないような印象を受けるデザインですが、 所有してみると奥深く、噛めば噛むほどしっくりと来る感じを受けます。 このデザインに ボタンなどの作りの良さも加わって、 非常に満足のできる物作りをしているわぁ、 と改めてLogitechって凄いのね、と感心してしまいます。

親指コロコロの実力

初めての親指体験に胸を躍らせた猫ですが、 ん〜っ、やっぱりボールが小さいとか、 手全体を使ってダイナミックにボールを動かす方式でないとかで、 実用上に差異はなさそうなのだけれど、なんだか気持ちよさに欠けるのよね ・・と、人差し指トラックボーラの猫は思ってしまいます。

その感想は なんとも予想通りで、ん〜、現実なんてこんなものかしら・・・なぁんて思っていたのですが、 気まぐれに座布団に座って 目の前にある小さな茶舞台の上に置かれたノートPCに 本機をつないで使ってみると・・あれれっ?、なんか人差し指トラックボールより使いやすい!?

このときトラックボールはそこら辺の適当なもの――逆さにしたゴミ箱とか、 ウェットテッシュのケースの上とか、あぐらをかいた膝の上とかに そう言うところに置いて使ったのですが、人差し指トラックボールをこういう 環境で使うときよりも断然使いやすい。なぜかしら、なぜかしら・・と 考えてみると、

ということみたいです。 考えてみれば当然ですが、親指は自由に動くので手のひらごと動かさなくても ボールを自在に操れるから・・・、ということの様。 うーん、使ってみるまで気が付かなかったわぁ。

手のひらを動かす場合、手首がなるべくまっすぐ伸びてる状態じゃないと 手のあちこちに負担がかかって辛いのですが、親指型はほとんど手のひらが動かないので、 多少手首の角度に無理があっても、(つまり肘の高さとトラックボールが一致しないような環境とかでも) 結構楽に操作できてしまいます。

猫はやっぱり日本人なので、「机と椅子」はお仕事セット。 プライベートでだらだらとパソコンを使うときは座布団と床で生活したい。 さすがに床に直接置くのでは辛いのだけれど、膝の上とかちょっとした物の上に ポンっと置いて使える親指型は、確かに人差し指型よりも自分の置き位置にうるさく言わないのね。

もちろん「ごろ寝耐性」はハンディ型の方が断然高いのですが、 でもでも親指トラックボールのほうが断然操作が気持ちよいから、 猫はすっかり「ごろ寝トラックボール」の座を本機に譲り渡してしまいました。

「親指」のメリットを引き出すデザイン

「キチっとしたお仕事環境」以外での耐性 ――本体を押さえながらボールを操作できること、 そして親指の操作が手のひらに影響を及ぼさない程手首が楽になること、 といった親指トラックボールの長所が見えてくると、 このST-65UPiはとても優れた設計をしているのね、と改めて感心します。

親指トラックボールの中ではもっとも小さいボールを持つ本機ですが、 逆にこのサイズはボールの操作を親指の関節だけで完結させても無理が出ないギリギリのサイズと言えます。 これ以上大きくするなら、手のひら側も動かさないと親指が辛すぎる範疇になっちゃう じゃないかしら。

もちろん、手のひらを動かしてでも大玉化して、気持ちよさを向上させるというのは一つの選択ですが、 それは 親指トラックボールにしか出来ない「ホントに指だけで動かせる」という利点とトレードオフになってしまいます。

また、幅広の半円状のボディは手のひらと指全部がボディの上に乗っかるちょうどよいサイズです。 親指トラックボールはマウスライクなボタン配置が出来るのがウリの一つな為、 ついついマウスの「握る為のデザイン」まで取り込んでしまいがち。でも、トラックボールなんだからそれではちょっとお間抜けです。 その点 本機はしっかりと手のひら全部を載せられるばかりか、 さらに一歩進んだ配慮――「中指の段」が指掛かりになることや 小指側に配置されたゴムグリップなど、 本体を抑えながらの操作もしやすいような 配慮も取られています。

総じてコンパクトに纏まりつつも絶妙の使い心地を実現する本機です。 また、ユーザスタイルに対する間口も広く、このトラックボールを使っていると、 100のユーザと10の環境があれば1000通りの指の掛け方が生まれるんじゃないかしら?と猫は思ってしまいます。 それはとても心地よいことです。

さすが歴史の長いTrackMan、さりげないデザインにも細かなノウハウがいっぱい詰ってるんですね。

小さな体に夢をいっぱい詰め込んで

猫的に想像以上の大当たりだった本機は、「親指型」であることの利点を最大限に引き出した 親指トラックボールの一つの完成形です。

そのデザインには「惰性」で決められたようなところはほとんどなく、 ライン一本についても良く考えられています。

親指だけで操作してギリギリ負荷が掛かり過ぎない大きさのボールは、 すこし気持ちよさに欠けるのだけれど、 その結果手に入れた 親指が無理をしないゆえの「楽さ」「操作性のよさ」と、置き場所をうるさく言わない大らかさは、 人差し指トラックボーラーの猫でさえ手放しがたい魅力を生み出しています。

この血統の最高級機を望む気持ちもあるのだけれど、 それは本機の持つ絶妙のバランスを破壊してしまいそうとも思うのです。

本当に良いトラックボールですね。

各部の詳細

表 見る角度によってコロコロ印象を変える 本機の形状を把握するには、やはり俯瞰が一番です。

猫はお月様が隕石衝突でバッサリと欠けてしまったかのような 印象を受けたのですが、 そんな綺麗なイメージとは対極的に ピタサンドみたいとも思ってしまいます。
後ろ 手前からのアングルが、本機が一番軟体動物っぽく見えるボディション。

手のひら部と親指部を切り分ける直線が パームレフト末端に近づくにつれ 次第に鋭さを失っていくデザインが見て取れます。

マウスのデザイン工学に汚染された目にはなだらか過ぎるように感じますが、 トラックボールのホールドは「握る」方向ではなくて「下に押しつける」方向ですので これで正解なんです。
左側面 ボールの配置された左側面です。 切り立ったエッジのこちら側は意外に複雑な曲面を描いているのが 解ります。

ボールの化石とその周りの石のようですね。
右側面 反対側とは打ってかわって落ち着いた表情を見せる右側面です。

半球に近い落ち着いた曲面にオーソドックスな 2ボタン1ホイールのレイアウトと、 とても安定した表情を見せます。

この左右で見せる表情が全然違う様は「あしゅら男爵」みたいです。 ・・・って古すぎかしら!?
前 フロントから見る表情は、マウスっぽい表情を見せます。

パームレストとなっている部分は複雑な曲面を描いておらず、 意外に緩やかで平坦な山となっているのが見て取れます。

左右のボタンは指置きの部分を微妙にへこませてあります。
裏 背面です。

何とも不思議な形状ですが、とりあえずケーブルが 10時の方向から出ているのは、 考えてみれば必然とはいえ目新しく感じます。

4つのネジが見て取れますが、筐体を空けるのに必要なのはこれで全てで、 ゴム脚やラベルをはがさなくても分解できるのは、猫のような分解マニアには とても嬉しい配慮です。(笑)
ラベル ラベルです。

不思議なことに、本機のパッケージには ハッキリと 「ST-65UPi」と記されているのに、 レベル上にはそれらしき文言は何処にも書かれてないんです。

ちなみに本機のワイヤレス版が「CT-64UPi」で、明るいシルバーのボディは お月様っぽさが増して良いなぁとか思ってしまいますが、無線は好きになれないのよね・・・。(以上余談)
ボタン側 シンプルながら配慮の行き届いたボタン側のデザインです。

それぞれの指の「段」が設けられていますが、 これは指を区分けする「セパレータ」ではなく、 あくまで場所を教えてくれるだけの「ポディションマーカ」的なもので、 ユーザの自由度の高さから猫はこっちの方に好感を覚えます。

また、「中指の段」は筐体を床に押しつけるときの 「指掛かり」としても機能し、小指側に広く取られたラバーグリップと合わせて、 手のひらで本体をホールドするのを助けます。
ボール側 シンプルな形を積み上げて構成されたボタン側とは異なり、 複雑な曲面を描くボール側です。

その理由はボールを動かす親指の動きを極力邪魔しないように えぐった結果です(多分・・)。
ロジテックマーク 確かに日本で「Logicool」の箱で買ったのに、 マークはなぜだかLogitech。

トラックボールは売れないから、日本ローカライズ生産もしないということでしょうか(TT)
ボールを外す ボールをハズしてみます。

アルミナセラミックらしき支持小球と、 光学式エンコーダを覆うフィルターが見て取れます。

このフィルタのおかげで肉眼では発光が見えませんしゴミの進入もありませんしと 良いことづくめなのですが、これをやってくれるのはロジテックだけ(TT)。
筐体オープン いよいよ筐体オープンです。ロジテックらしい 余裕のあるシンプルな内部構成ですね。

とっちらかっていない感じが良さげです。
筐体上面 筐体上面裏です。

こうして裏から見ると、 親指と手のひらを分ける「山脈」は 本体の剛性感を上げる役目もしているのかも。
グリップ部は外れます 開けてみて初めて気づいたのですが、ゴム塗装部は別パーツだったのですね。

このグリップは、たまたまのパーツ分割部をゴム塗装にしてみたのでも、 デザイン上のインパクトを主目的としてものでもなく、 純粋にグリップとして設けられたものに思えます。
グリップ こうしてみる限り「ゴム塗装」と言うよりはゴム膜塗布、 というか「ゴム鍍金」とも言うべきかなりしっかりしたゴム層が 作られている模様です。

案外コレのほうがマスキング+塗装よりもコストがかからないのかしらん?
筐体下面 機能部品は全て筐体下側に実装されています。

本機の基盤構成は、ボール部、ホイール & ボタン部とメインのコントローラ基盤の構成されます。 これら基盤は直接フラットなケーブルの半田付けで結ばれていて、 気軽に分離は出来ません。
ボールユニット ボールユニット部です。

ソケットと光源・光学センサの実装された基盤が 一体化されています。
ボールユニット裏 裏側から。 意外にこぢんまりとした基盤です。

センサーを拝んでみたいところなのですが、 不精者の猫ゆえ、基盤をハズしませんでした。
ボール 光学式を実現するために書かれたポツポツパターンが 旧世代のテクノロジだと感じさせます。

機能的には安定した性能を発揮してとても宜しいのですが、 生理的にこの模様が気持ち悪いと感じる方も多いようで、 そろそろ ここら辺を解決した機種にモデルチェンジしても 良い頃合いだとは思うのですが・・・。
支持球 支持球です。

周囲がくぼんでいるのはおそらく成形上の都合でしょうが、 支持球周囲に貯まるゴミの逃げ場にもなっています。
ホイール ホイールは、後期型First Mouse 以降でお馴染みの Logitechの標準的なホイール構造です。

安定したホイールの操作感はさすがです。
ホイール横 ホイールを横から。 光学エンカウントを行うスリットが見えます。

手前に見えるのは右クリック用のマイクロスイッチです。
ホイールクリック ホイールクリック機構です。

実はホイールクリックもマイクロスイッチをつかった贅沢な構成なんです。
回転中に暴発することもなく、それでいて軽い力で確実にクリック出来るチューニングは、 さすがにこなれているわぁと感心しきりです。
マイクロスイッチ 本機の3つのボタンは全てこのスイッチです。

「D2FC-F-7N」という型番が印刷されており、 高級機種の定番、オムロン製のマイクロスイッチ D2Fシリーズ という贅沢構成です。
メイン基盤 メインの基盤です。 コントローラチップがちょん、とのっています。

基盤に輝くロジテックマークがちょっと窮屈そうな感じ。
コントローラチップ コントローラ・チップです。
大きさ比較 大きさの比較です。

比較的コンパクトとはいえ、マウスと比べると結構大きい。 特にキチンと薬指 & 小指の分スペースを取っているので 意外に横幅が大きいです。
ボールの大きさ ボールとドリキャスのVMとの比較です。34mm経と随分小さいボールです。

よくあるタバコの箱との比較に対する洒落のつもりで始めたのですが、 イマイチ大きさのイメージのわかないこの比較に意味があるのか、 最近真剣にお悩み中。
ボールの大きさ というわけで、トラックボールユーザにはよくわかる(笑) 40mm球との比較です。

こうして比べると随分ちいさいんですね。

ただ、親指で40mmというのは逆にえらく使いにくくなってしまいますし、 実際つかってみた感想からも 逆にこれくらいが丁度良いサイズなのよね、と感じます。
グラビア 歴史あるTrackManシリーズのノウハウを受け継いだ本機は、 親指トラックボールのひとつの完成形だと感じさせる 合理的で説得力のあるデザインが幾所にも見られます。

造り的にもランク的にもお値段的にもごく普通の中級クラスな本機ですが、 それを組み上げる優れたデザインが本機を並以上の存在にしています。

枕元にノートPCを置き、うつぶせに寝そべりながら 伸ばした手の内に本機に抱えてゴロゴロしならがコロコロとオペレートするとき、 猫はなんとも言えない幸せを感じます。

人差し指トラックボールユーザにも ぜひぜひ触って欲しいトラックボールです。

<総合評価>

繰球の気持ちよさ 光学式のためある一定の水準は超えるもののボールが小さいため、それほど官能的とも言えず。
回り出しの滑らかさ 点支持特有の「カクン」感はあります。
回転中の滑らかさ さすが光学式3点支持で、とてもなめらか。
ドラッグのしやすさ 親指型なので、基本的に問題なしです。
対腱鞘炎 総じて良好っぽいです。方式上どうしても高くなってしまう親指負荷も小さめのボールのおかげでそれほど気になりません。 逆に手の甲や手首の負担が軽いさが引き立つ感もあります。
コストパフォーマンス 材料費や機能、造り的には「妥当な線」ですが、完成度から見ればとても「お得」です。
三猫のおすすめ度 ★★★★★
4つ半にしようか迷ったのですが、ちょっとオマケ気味で五つ星とします。 いろいろ凄いところはあるのですが、なにより親指トラックボールの魅力を存分に引き出した 親指型の一つの完成形が、このお値段なのは本当に凄いことです。