トラックボール個別面談

Logitech ST-45UPi (Marble Mouse :ST-45UPi)

Logitech ST-65UPi
メーカー Logitech (Logicool)
ボタン数 4ボタン
ホイール 無し
エンコーダー 光学式
ボール支持 アルミナセラミック球による3点支持(推測)
ボール径 40mm
コネクタ PS/2・USB

誰もが見たことがあるトラックボール。

たぶん、「トラックボール」を知っていて、 本機を知らない人はいなんじゃないでしょうか。

Marble Mouseは、 大玉とは言えないけれど十分な大きさのボールと万人に拒絶されにくい左右対称のデザイン、 そして手ごろな価格設定から、 エントリー機として名高い、ロジテックの定番トラックボールです。

そのケレン味のなさと、シンプルな外観、 そして1998年の登場以来ほとんど形を変えないで来た息の長さも手伝って、 多くの人が「トラックボール」と聞いて思い浮かべるイメージは、 本機であることが多いのではないでしょうか? (実際雑誌やサイトで「トラックボール」の例として 掲載されることが多いです。)

そんな「ベーシック」で「オーソドックス」なトラックボールである本機ですが、 本機には、他のどんなトラックボールにもない、 個性的な特徴があるのです。

自由に「握れる」トラックボール

Marble Mouseの特筆すべき特徴は、手の傾きに対する並はずれた自由度です。

一般にシンメトリカルデザインのデメリットとして、 手のひらを水平に置いて操作するため 手首の自然な傾きにならないことが挙げられます。

確かにExpert Mouseや Orbit 、WWT-5Eなどのシンメトリカルデザインなトラックボールは、 手を水平に置くことを前提にしているように思えます。 もちろんそのようにしか使えないということはないのですが、 この手のデザインは、「基本は水平」であることは否定できません。 (ただ猫は「置く」に限っては、 手首を水平にすることはヒトにとって不自然ではないと考えていますが、ここでは置いときます。)

しかし、このMarble Mouseはシンメトリ機でありながら、 まるで右手専用機のように 「手を大きく傾けて」ホールドすることを前提にしているのです。

幅が狭く背の高い本機のボディは、あからさまに「手で握る」デザインです。 「握る」デザインは「置く」場合と異なり、 手を水平にしておくのを辛いと感じさせます。(と、猫は考えています。)

ところが本機はシンメトリ機でありながら握るデザインを採用しています。 それでも操作が辛いものにならないのは、本機が手の傾きに対して大きな許容度を持っているからです。 シンメトリ機でありながら手のひらを左右どちらに(かなり)傾けてホールドしても、本機の場合は操作感が破綻することはありません。

握るくせにホールディングに対する高い自由度を誇る、 その「オーソドックス」というイメージと異なり、 Marble Mouseは、 こんなウルトラCを実現したとても個性的なトラックボールだったんです。

「傾きの自由」の秘密

本機の手の傾きに対する非常に高い自由度を実現する要因は (いろいろ要素はあるのですが)、 主に二つ。 その一つは、光学式だから実現できた露出度の高いボールです。

実際 本機のボールカップは支持点ぎりぎりまで切りつめられています。 (すでに「カップ」という大きさを確保できてません) おかげでボールの3/2近く(!)と高い露出度を実現しています。

この「大きく飛び出たボール」は、本機から受ける「オーソドックスなイメージ」と異なり、 回転検出のためのシャフトがボールサイドに振れる二軸ロータリエンコーダ式では実現できない、 「元祖光学式」のMarble Mouseだから出来た、独特のものです。

このデザインのおかげで、 ユーザーはボールの「てっぺん」を触らなくても(手のひらを大きく傾けても) 操作するのに十分な面積を触ることができます。 言い方を変えればMarble Mouseのボールは「何処をてっぺんと捉えるのも、ユーザの自由」なんです。

二つめは、 大きくて触知性に優れたクリックボタンです。

本機のボタンははその大きさと、どこを押しても引っかかりのないスムースな操作感から、 高級機に匹敵するまさにトップクラスの気持ちよさを誇ります。 このこと自体も本機の大きな魅力なのですが、 これを更に優れたものにしているのは、そのボタンをボディの傾斜とずらした、 「ツライチでない」デザインです。

単純に「大きくてどこを押しても快適なボタン」はホールドの自由度を生みますが、 ボディラインから切り離されたボタン面は、 握った手の中でも存在感を主張し、ボタンの位置を迷わせません。 ボディラインと一致しないことで若干飛び出たボタン面は、 押し込む必要がないため、指先以外でも無理なく操作が可能です。

本機のボタンは、指に限らず手のどこで押しても自然です。 おかげで、ボタンの存在が本機の握り方に制約を与えることがないのです。

Marble Mouse は、あなた色に染まります。

片方のボタンに親指をかけ、ボールの天頂から30度くらい傾いた位置に 人差し指と中指を添える・・。

こうやって握ると、まるで右手用(左手用)ようにあつらえた いわゆる「エルゴ・トラックボール」のようなフィット感を感じます。 そして本機の特徴である「何処を押してもひっかがらない大きなボタン」は、 こういった斜めな持ち方でも、そうあつらえたかのように、全く問題なく操作できます。

もちろん手の中心線をトラックボールの中心線に合わせる 「シンメトリカル」な持ち方でも、 (多少窮屈な印象はうけますが)素敵な操作感が得られます。 Marble Mouseの素晴らしさは、握り方に対する桁外れなまでの許容度です。 まるで「あなた色に染まります」な Marble Mouse に、 猫はこのトラックボールに好かれていると感じます。 (それはとても心地よいことです。)

これだけの握りの自由度を持ちながら、 手のひらにこれだけフィットするというのは、 こうして触れていてもなんだか信じられません。 狸に化かされている様というか、 とにかくLogitechの設計の巧みさは見事です。

本機はエントリー機と呼ばれるだけあって、 仕様的にシンプルすぎるきらいはあります。

猫も確かに、「スクロールホイールくらい欲しいな」とか、 「やっぱり50mm以上になるとボールの気持ちよさは違うのよね」とかは思います。 押さえられたスペックゆえ、上位機への乗り換えの示唆を覚える時もあるでしょう。 でもそれ以上に本機の握りの自由さは魅力です。 この魅力には替えがないから、本機をエントリー機と呼んでしまうのは抵抗を感じます。

単に「左利きでも快適に使える」ということじゃないんです。 ヒトは気分や体調によって、ちょっと握り方をずらしたいって思うものです。 そういった「ちょっとした我が儘」に付き合ってくれる、 そっと付き添ってくれるというのは、 想像以上に心地よいものです。

「エントリー」のつもりだったのに、 気付けば離れられなくなっちゃった・・ という人は、実は結構多いんじゃないかしら、と思うのです。

各部の詳細

表 本機は、かなりほっそりとした横幅と、大きく飛び出たボール、 おっきなボタンが個性的なトラックボールです。

Marble Mouseは、初代(1998年10月)、 USBに対応したST-43UPRi(1999年11月)、 ガンメタ塗装になったST-44UPi(2001年8月)、 スクロールボタンの増えた本機ST-45UPiと、 ちょっとづつ進化はしているものの、その基本形状はずっと変えていません。

それだけ、最初から完成度の高いデザインだったというわけです。 (けど、 正直猫は、スクロールボタンははっきりいって蛇足に感じますし、 ガンメタカラーもガングロ娘のようで可愛くないわ、と思います。)
後ろ 手前からのアングル。「山」の傾斜がけっこうキツいのが解ります。

この傾斜のせいで本機は「置く」というよりは「握る」といった 感触を受けます。
左側面 意外にニョロっと長い側面です。

斜面に陣取るボタンはかなりの大きさで、小指や親指でしたら指一本をまるまる添えられる長さがあります。
前 フロントからです。

こうしてみると、ボールのほとんどが露出しているように見えます。 これだけ露出させていて、ボールが落っこちないのですからたいしたモノです。
裏 背面です。 なんだか微生物じみているライン取りです。

ボール下の穴は、これだけボールが飛び出してるのです、 突いてボールを外すためというよりはゴミが落っこちる用でしょうか。
ラベル ラベルです。

不思議なことに、本機のパッケージには ハッキリと 「ST-45UPi」と記されているのに、 ラベル上にはそれらしき文言は何処にも書かれてないんです。

ラベル中央上にある十字の切り込みは、ネジ穴へアクセスするためのもので、 ここにドライバーを突っ込めばラベルを剥がさなくても分解できます。 ここら辺の気遣いはさすがLogitechです。
Trackmam Wheelとのツーショット せっかくですので、「Mr.人差し指くん」と「Mr.親指くん」を並べてみました。

ST-65UPi(TrackMan Wheel)と比べると、小型という印象のある本機がとても巨大に見えてきます。 それだけST-65UPiがコンパクトという訳ですが、 本機も決して、小さいわけではないような・・・。
ライバル比較(上) ライバル比較(斜め) ライバル比較 せっかくですので第2弾。ライバル Kensington Orbit と比べてみましょ。。(これはOrbit Elite)

おなじシンプル(基本は)2ボタンデザインながら、 「置くデザイン」のOrbit Eliteと「握るデザイン」のMarble Mouseの差は大きいです。
広く平面的なOrbit Eliteと 背の高さがちょっと高く斜面が急なMarble Mouseでは、 その設計思想が大きく違うため どちらが良いというよりは既に好みの領域です。

猫としては、最初はOrbitのゆったりとした「置くデザイン」のほうが良いと思っていたのですが、 Marble Mouseの大きく露出したボールは、手のひらを床と平行においても斜めにおいても良い「間口の広さ」があって、 その間口の広さを生かす為の「急斜面」デザインだと解ったとき、 本機の握りごこちをとても気に入ってしまいました。

現在の心境は、まさに「甲乙付けがたい」といった感じ。 OrbitもOptical化しましたし、全く別物でありながらガップリ四つの互角っぷりは、まさにライバルといったところ。

いずれにしろ、どちらもとても造りが良くって、 (ボタンや筐体の品位なんて、Microsoft TrackballExplorer よりも良いくらいです) とてもお得なトラックボールということには替わりありません。
――と、毒にも薬にもならないことしか言えない我が身がうらめしい・・・(TT)
ボール 本機の「握りの自由さ」を支える要因その1、大きく露出したボールです。
表面積の約2/3が露出したボールは、真上にも、横にも指を添えられる優れものです。

エンコーダの追従性も素晴らしい本機ですが、この赤字にポツポツのパターンは、 生理的嫌悪感を感じる人もいるので、そろそろバージョンアップしてほしいところ。
ボタン 本機の「握りの自由さ」を支える要因その2、おおきなボタンです。
本体の斜面より少し傾きを変えたボタンは 手の中で自身を主張するので、 どのような握り方をしてもボタンの位置に迷うことはありません。

また、何処を押してもひっかがるようなことはなく、カチッとしたマイクロスイッチの感触は 高級機のそれに匹敵します。
ここらへんの質感はさすがLogitechですね。

ちなみに増設されたスクロールボタンは実は 4、5番ボタンで、 Windowsのデフォルトだと戻る・進むに割り当てられます。
ボールを外す ボールをハズしてみます。

大きく前に傾いた仮想床面を想定して配置された、 アルミナセラミックの3つの支持球のほぼ中央という理想的な位置にエンコーダがあります。

ちなみに、Logitechの光学センサはフィルタ付きなのですが、 肉眼での光漏れやこれはゴミの進入を防ぐ優れものだと思うのですが、 Logitech以外は採用してくれません(TT)。
隠しネジ 筐体を開けるために、隠しネジにアクセスします。

一度ドライバーを突っ込むと、見ての通りラベルに穴が開いてしまうのですが、 Logitechはこれで分解したか否かの判別に使うのでしょうか?

どうでも良いことですが、 なんだかこれって、ちょっとエッチです。

筐体オープン いよいよ筐体オープンです。見ての通りボタンは筐体上側に固定されています。

内部には結構ゆとりがあります。
中身 中はカップ&エンコーダ、左右のボタン用スイッチ基板、 メインのコントローラ基板の4ピース構成です。
ボールユニット ボール受けはカップと呼んで良いモノか、 ギリギリまで削られています。

ちなみに筐体上蓋に設けられたちいさな突起がボールを固定するので この状態だとボールはただ乗っかっているだけです。
カップ周辺 見てのとおり、カップは支持球ぎりぎりまで削られています。

ここまでやって初めてMarble Mouseのホールディングの自在性が得られるのですね。
マイクロスイッチ 左右のボタン用のマイクロスイッチです。

中級機ではおなじみの I-Cマークのマイクロスイッチですが、 これってどこのメーカのなんでしょう? ・・・って書いたらさっそく情報が。
Switronicのコレ じゃないか、とのこと。なるほど〜。

増設されたスクロールボタン用のスイッチが 無理なくのっているのがさすがです。
ボタン裏 ボタン部を裏から見ると・・、結構ぎりぎりの増設だったんですね。

中を開けてみるまでは、KensingtonのTurboBallのように、 背中の部分にスクロールホイールを付けて欲しいと思っていたのですが、 これではちょっと無理ですね。
ボールユニットと基板 基板類とボール受けをハズしてみました。

綺麗にユニット化されています。
カップ ボール受け単体です。シンプルな形をしていると思いきや、 結構複雑な形状でした。
外側のカクカクした枠は筐体下面にカップをしっかり立てるための足になります。

センサ窓横の爪でしっかりエンコーダユニットと止められています。 センサ窓のフィルターは、ユニットとカップにはさまれているだけなので、 この状態で逆さにすればカンタンに外れます。
エンコーダその一 「Marble Sensing Technology」の中核となるエンコーダ部品。(概念図はコチラ)。

このユニットは二つの光源と一つのセンサ、レンズ兼反射鏡(というかプリズム)からなります。
エンコーダその二 別角度から。左右の光源から出た光はマーブル模様のボールに当たり、 それをユニット中心のレンズが捉えます。(次へ)
エンコーダその三 画面中央にみえるレンズのような丸い部分は(写真ではわかりにくいのですが)よぉ〜くみると実は反射鏡で、 これが一枚目の写真のセンサに導かれる・・・と、そういう仕組みです。
コントローラチップ コントローラ・チップです。
大きさ比較 大きさの比較です。

コンパクトな印象がつよい本機ですが、 こうして比べると意外におっきいです。
ボールの大きさ ボールとドリキャスのVMとの比較です。

ピンポン球と同じ40mm経は、 中級(?)トラックボールでは一般的なサイズです。
グラビア 「普通のトラックボール」を買ったつもりが、とんだいっぱい食わせ物、 全然普通じゃない とても個性的な子でビックリ、なMarble Mouseです。

きっと「光学式」というワザを得たときLogitechの技術者は、 このワザで初めて実現できる何かを、一生懸命考えたのでしょう。

だから、本機はまねできないし、本機のようなトラックボールは 実は外にありません。なるほど、「Marble Mouseは世界一ぃぃっ!」も伊達じゃないと 納得至極です。

<総合評価>

繰球の気持ちよさ 光学式 + 40mm径は官能的繰球感の入り口です。
回り出しの滑らかさ 点支持特有の「カクン」感はありますが、あまり気になりません。
回転中の滑らかさ さすが光学式3点支持で、驚くほどなめらかです。
ドラッグのしやすさ 人差し指型ですが、大きなボタンのおかげでとてもドラッグしやすいです。
対腱鞘炎 持ち方によるかしら? 手を添える自由度が高いので「痛くない持ち方」を模索する余地があります。
コストパフォーマンス 「スペック表」で考えるとそれなりですが、満足度から考えると高いかしら。
三猫のおすすめ度 ★★★★
これは文句なしにおすすめでしょう。ただ、猫のごく個人出来な意見では、 カラーリングが白でスクロールボタンが無ければ、もっとデザイン的満足度が高かったのに、と思ってしまいます。(アレ?)