トラックボール個別面談

Kensington Expert Mouse (Expert Mouse 5 :Model 02651)

Kensington Expert Mouse 5
メーカー Kensington
ボタン数 4ボタン
ホイール 無し
エンコーダー ローラ式
ボール支持 ステンレスベアリング ローラによる3点支持(エンコーダ兼)
ボール径 57mm
コネクタ PS/2・USB

美しいトラックボール

美しい・・、本当に美しいデザインのトラックボールです。

Expert Mouse(Mac用はTurbo Mouse)は ステンレス製幅広ベアリングローラに支えられた57mm径の大型ボールによる ウルトラスムースかつ官能的なコロコロ感が魅力のKensington伝統のフラッグシップモデル。 本機はその5代目にあたります。

本機の一番の魅力はそのデザインの美しさにあります。 直線と曲線が見事に調和したシンメトリカルデザインは、 トラックボールはエルゴを名乗る粘土細工か古さを感じさせる板金加工なデザインしかないと思っていた 猫にとって革命的でした。
このデザインに清潔感のある白を選んだ点も素晴らしいです。 調和の取れたデザインに「白」はよく似合います。

これだけデザインが良いと見てくれだけのデザインではないかと心配になりますが、 ところがどっこい本機は抜群に良く手にフィットします。

「エルゴデザイン」というと、 手の形に合わせてなるべく手と触れる面積を増やそうするものが多いです。 一見これらは手にとても優しそうに見えますが、 力の掛かる部位はともかく、力の掛からない部位まで必要以上に手と接するデザインは、 手に長時間「同じ形」を強いること、必要以上の力を加えても「辛い」と思いにくくなることから、 握った瞬間は良くても使い続けると手のダメージになってしまいます。

その点このExpert Mouseは手に媚びすぎないので、「決まった手のポディション」が存在しません。 だから長時間の使用でも手が疲れにくいですし、手が固定されないため大径のボールを操作するのに十分な自由度を得ることが出来ます。

「手」に近寄りすぎず、遠ざかり過ぎない絶妙のフィット感と、 「ディテール」ではない真に美しい形を持った非常に秀逸なデザインです。

最高のゴロゴロ感

本機のもう一つの魅力は、 光学式トラックボールを超えた特筆すべき官能的繰球感です。 幅広ステンレス・ベアリングローラに支えられた特大の57mmボールがもたらす操作感は絶品です。

本機の繰球感は「コロコロ」というよりは「ゴロゴロ」で、 その回転感は非常に滑らかながらも「重厚」です。

確かに「回転中の軽さ」だけを見るなら、 点支持 & 光学式のトラックボールに何歩も譲ります。 ですがこの重さは決して不快なモノではなく、むしろ質量を堪能する喜びを与え、 本機の繰球感をグラマラスで官能的なものにしています。

そして、本機の繰球感が魅力的なもう一つの理由は、 回りだしと回転中の負荷のギャップのなさによる、 「回りだしの滑らかさ」にあります。

一般にモノを滑らす場合、止まっているモノを動かす方が動いているモノを動かすよりも力が入ります。 支持点の上をボールが滑る構造の いわゆる「光学式トラックボール」では、 動き出しの重さ(静摩擦)と動いている最中の重さ(動摩擦)のギャップのため、 転がり出しが「カクン」となってしまいます。その結果、カーソルをちょっとだけ動かす様な操作を苦手とします。

本機のようなベアリングローラ支持の場合、 支持点の上をボールが滑るのではなく、ボールと一緒に支持ローラが回るため「転がり摩擦」が働きます。 そのため、静摩擦・動摩擦ギャップとは無縁です。 (が、ボールはあちこちに転がるため、必ずどこかのベアリングはボールが回転方向と一致せず、 結果わずかに動摩擦・静摩擦のギャップが発生するハズですが、無視して良いんじゃないかしら。)

本機は、コロの原理の「転がり摩擦」と、 大径ボールや適度な負荷のベアリングによる心地よい「回転の重さ」のおかげで、 動きだしもとても滑らか、止めようとすればピタッと止まる、 そんなとても扱いやすい繰球感になっています。
これは光学式トラックボールも適わない、 大玉とステンレス・ベアリングローラ式トラックボールの大きなアドバンテージです。

そんなこんなで特筆モノの繰球感を誇る本機、 滑らかなころがり感の中に感じる玉の心地よい重さは麻薬的で、 四指の腹全体でゴロンとボールを転すと、あまりの気持ちよさに思わず気分は“うにゃ〜ん” となってしまうのです。
一度この快楽を味わってしまうと、もうExpert Mouseから逃れられませんわ♪

ただ、ステンレス・ベアリングと言えどやはり「ローラ」、ゴミが付着すると 回転に「ガタッ」という雑音が操作に混じるようになります。 ゴム巻きシャフトのように空回りすることは無いので、気にしなければどうと言うことはないのですが、 気になる質だとマメなお掃除が必要です。
お掃除自体はボールもただ乗っかっているだけですし、 幅広ステンレスホイールは汚れも簡単にふき取れるので、とても楽に行えます。

スクロールホイールが無い!

本機の購入を検討している方で一番気になるのが ホイールがないことではないでしょうか? 本機の姉妹機種 Expert Mouse Pro はボールの奥にホイールが追加されていますので、 そちらとの比較も気になるところでしょう。

結論から言えば実際に使ってみるとホイールの必要性は感じません。

Kensingtonのマウスウェア 「MouseWorks」を使えばボタン同時押し等で スクロールモードへの移行が出来るようになります。 "Scroll when you move the mouse"を設定すればボールを回すとスクロールするようになります。 しかもただ「スクロールできる」だけなのでなく、あの官能的繰球感でスクロール操作が出来るのです !

MouseWorksの"Scroll when ..."は、スクロールバーをドラッグするときのような感覚で、 操作量に対してかなり大きくスクロールするのですが、 マウスと違い大きく動かすのも小さく動かすのも自在のトラックボールとこの操作性の親和性は抜群で、 こちらになれると一定量づつしかスクロールできないホイール スクロールのほうが 逆に焦れったく感じるようになるくらい、スクロール操作も官能的です。
(最近ではマウスのホイールでも MSのチルトホイールの様に スクロールスピードを調整できるものも出てきました。)

このようにMouseWorksのスクロールモードは長文のスクロール時にはホイールを遙かに超える快適さが得られるのですが、 マウスのスクロールホイールの様な遅いホイールスクロールに慣れた指には 設定を"Very Slow"にしても早すぎると感じる場合があります。

回避法としては 若干クセのあるスクロールになってしまうのですが"Use Office97 style scrolling"に チェックを入れる方法と、Windowsの場合はTrackScrollというフリーウェアを使う方法があります。

TrackScrollはマウス動作をスクロールモード切り替えられるようにするソフトで、 好都合なことにスクロールモードの移行法が「左ボタンを押しながら右を押す」のため、 MouseWorksで「左右同時クリック」との同居が可能です。
そしてTrackScrollのスクロール速度は「マウスのホイール的」ですので、猫はスクロール目的に応じて双方を使い分けています。

というわけで、ホイールは無くてもほぼ問題なし!といった感じです。 確かに、スクロール目的以外にホイールを使う場合や、ドラッグ中にスクロールしたい場合、 単純にモードの切り替えがうっとおしいなどのデメリットもありますが、 トラックボールでのスクロールはホイールやマウスドラッグよりも圧倒的に気持ちよいので、 ホイールがあってもボールでスクロールしたいと思ったり。

気になる点

とにかくべた褒めのExpert Mouseですが、気になる点が無いわけはありません。

まず気になるのがドラッグが若干しにくいこと。

慣れればどうということは無いのですが、 大きなボールを指の腹全体で動かす本機では 親指や小指を固定したままボールを動かすことになるため、 やっぱりちょっとやりにくいです。
(慣れなかったり親指や手のひらに負担を掛けたくない場合は MouseWorksでボタンを一つドラッグロックに振り分けてしまうのが吉かしら)

もう一つは、意外に本体の傾斜が急なこと。
チルトスタンドを立てたキーボードなみの傾斜があるので、 手首に負担を感じる人も居るでしょう。

Kensingtonの推奨する、下腕を机につき手首を宙に浮かしたホールド法をとれば負担は掛からないのですが、 パソコンデスクの様にトラックボール手前に十分なクリアランスが取れない環境ではちょっと辛いです。 別途パームレフトを用意するのも良いでしょう。

そんなこんなで最後にちょこっとイチャモンをつけた猫ですが、 このExpertMouseは大いに気に入っています。 本機は間違いなく名器です。 もし市場から消える日がくるならば、猫は一生分のストックを買い込もうと思います。

追記 2004.06.06

七陽商事さんが、日本での販売を止めてしまったので、 とりあえず ストックを2台、確保しました。 一生分には遠いけど、これがお財布の限界でした(^^; う〜む・・・。

さらに追記 2004.12.04

と、思ったら七陽さんの取り扱い復活しました。しかも安くなってます。 良いことなんだけれど、う、う〜むぅ・・・。

各部の詳細

表 まずは上面。

シンメトリカルで幾何学的な中に優雅な曲線を描く とても美しいデザインです。

下の二つのボタンが左右のクリックボタン、上の二つが第3、第4ボタンです。 トラックボールでは良くある配置ですが、マウスユーザのほとんどは 上の二つをクリック、右クリックだと勘違いしてしまいます。

げに怖ろしきは固定概念かしら。
後ろ 手前から。

手で抱える部分が盛り上がっているのが見て取れると思います。
この「盛り上がり」を乗せている回りの四角い「ざぶとん部」のおかげで、 トラックボールをぶつけたら勝手にクリックされてしまうというありがちな ミスをおかさずに済みます。
左側面 横からのながめです。

このトラックボール、意外に傾斜があります。 ケンジントンによればこれを使うときには手首を浮かせて使うそうなのですが、 しっかり手首を机につけて動かす向きにはちょっと傾斜がきつすぎるかも。

それにしても、サイドビューも美しいわぁ・・。
前 後ろ側です。

盗難防止の穴が愛らしい背面です。
裏 そして下面。

な〜んにもない、シンプルの極地です。 ネジ穴すらみえません。うう、どこかしら・・・。
ラベル ラベルです。

本機は5代目のExpert Mouseなのですが、 「5」の文字はどこにもありません。 というわけで Expert Mouse 02651とも呼ばれることもあるみたいです。

ところに Model #02651Y の「Y」って なんでしょうね?
ボタン どこを押しても気持ちよくクリックできる素晴らしいクリックボタンです。

ボタン中央に走っている「山折り線」のおかげで、 ボタンを「握るように」押しても、「机に押しつけるように」押してもちゃんとクリックできます。

ちょっとしたデザインが凄い効果を発揮する ケンジントンさすがのノウハウです。
ボールを外す 本機のボールはビリヤード球と同じ約57mm。

ボールを外すと二つのエンコーダを兼ねる大型ステンレスローラと、 ボール支持を行うちょっと小さめのローラが見えます。 これらのローラがリッチな回し心地を支えています。

が、エンコーダを兼ねているため均等にローラが配置されておらず、左方向、上方向へ 思いっきり勢いよくボールを回すと「ガタッ」と跳ねることがあります。

ここだけがちょっとだけ残念。
ステンレスローラ これがエンコーダを兼ねるステンレスローラです。

顔をのぞかせる幅広のローラが二個、これが本機の魅力の全て。 滑らかでグラマラスな官能繰球感を生み出すウルトラ部品です。
ローラアップ 本機のエンコードローラは実はステンレスベアリングそのものです。

中央に走るすれた後がボールを支えている「点」です。
隠しネジ と、いうわけで早速分解です。

本機のネジ穴はラベルの下に二つ。ラベルをはがす必要があるのがちょっと悲しいですが そこは我慢我慢。
筐体オープン ご開帳〜♪

開けてみると意外にシンプルな紙フェノール基盤が顔を出します。

クリックボタンはキーボード上面に固定されています。こちらはちょっと複雑そう。
ローラユニット 基盤実装がシンプルなのはこの美しくもシンプルにユニット化されたエンコーダ・ユニットのおかげ。

ベアリング・ローラと発行部、レンズが一体化されています。
ローラユニット 横から エンコーダ・ユニットを横から。

ベアリング・ローラ側面に貼られたストライプパターンのシールが カウントされるわけです。
エンコーダ エンコードの仕組みはこんな感じ。

発光部に照らされたステンレス・ローラのストライプパターンを 円筒形のレンズが拡大、それを光学センサが読みとります。

ちなみに発光部の出す光は肉眼では見えません。 でもセンサの方は可視光を受け取るのか 明るい部屋の光にさらすとうまく動きません。
ソケットとボール 別の角度から。意外に受光素子とボールの位置が近いのが解ります。 基盤だけみると余裕があるように見えるけど、ボールが大きいから 結構キツキツなのね。

ボールはベアリングで支持されて、筐体下面の筒との間に 隙間が開いています。
光の通り道 筐体上面の金型修正の後です。

実はココはセンサとエンコーダ・ユニットの光路に当たります。 う〜ん、初期ロッドからこの修正があったのか、 途中でエンコーダが変わったのか興味深いところです。
受光素子 センサです。

なぜかセンサをずいぶん離して配置してあるため、 実装精度が高くなくっちゃ駄目そう。
マイクロスイッチ 心地よいクリック音を立てるオムロン製のマイクロスイッチです。

基盤裏返し 基盤背面です。こちらもチップ抵抗と小さなチップが付いているだけでとてもシンプル。
ガイドローラ エンコーダを兼ねない、ボールをささえる三つ目のローラです。

一回り小さいながらも こちらもステンレス・ベアリング・ローラです。
コントローラチップ コントローラ・チップです。

このチップ、よくみるのよね〜。マウス・トラックボールの標準的チップかしら?
ローラの光検知パターン ステンレス・ローラにを裏から。

表からでは レンズとLEDのユニットでよく見えなかった、 側面に貼り付けられたストライプパターンのシールに注目です。

メタルシールに細かいシマシマが印刷されています。
大きさ比較 大きさの比較です。

MS InteliMouseと比べるとずいぶん大きく見えますが、 そこはそれ、トラックボールですので、利用に必要な机面積は Expert Mouseの方が狭いです。
ボールの大きさ ボールとDreamcastのVisualMemoryとの比較です。

さすがにおっきいですね。
グラビア 本機は買って後悔しない素晴らしいトラックボールです。

実は「Turbo Mouseは5代目で回し心地がちょっと下がった」と言われているらしいのですが、 この操作感は究極だと思えるだけにちょっとこれ以上の繰球感は想像できません。

恐竜的進化をしてしまった 6代目(=Expert Mouse Pro)、 光学式になり魅惑のステンレス・ローラの感触を無くしてしまった7代目をみると 本機はいつまでも新しくありつづけられるExpert Mouseの決定版だと思えてくるのです。

<総合評価>

繰球の気持ちよさ 抜群です。最高ランクの気持ちよさ。
回り出しの滑らかさ 非常にスムースに回り出します。やはり大玉の勝利でしょうか?
回転中の滑らかさ 回転中も非常に滑らか。でもそれほど慣性で回り続ける訳でもないです。
ドラッグのしやすさ ボールの操作に手全体を使うため、ちょっと難あり。
対腱鞘炎 本体の傾斜角がちょっと急なのが気になります。
コストパフォーマンス この作りでこのお値段ならば納得お得プライス。
三猫のおすすめ度 ★★★★★
無条件の5つ星、絶対おすすめです。高品位な入力デバイスを求めるなら必ず検討すべきトラックボールです。