キーボード個別面談

東プレ Realforce 89(ND0100)

Topre Realforce 89
種類 日本語89キーボード
メーカー 東プレ
キースイッチ 静電容量式スイッチ
アクチュエータ ラバードーム
キートップ印刷 含浸印刷
コネクタ PS/2

待ちに待ったキーボード!

テンキーレスキーボードファンとして、待ちに待ったキーボードです。

正当派テンキーレスキーボードとしては事実上、 IBMのSpace Saver II Keyborad / USB Space Saver か、Fujitsuの FKB8740しか ありませんでした。 この二つは良いキーボードではあるモノの「一級の打鍵感」を持っているわけでもなく、 非常に歯がゆいところでしたが、 このRealforce 89の登場でそんな状況にも終止符が打たれることになりました。

Realforceの打鍵感

非常に軽いキータッチながら、クリアなキータッチで好評のRealforceシリーズですが、 本機も過去のRealforceと同じ打鍵感を持っています。

メンブレンスイッチではその導通のためにキーを一定の力以上で底付きさせる必要がありますが、 コニックリングによる静電容量式スイッチを導入した本機は、 ラバーカップの特性を「打鍵感」にのみ注力して調整することができます。

「軽さ」や「押下圧調整」などが目立つ本機ですが、意外なことに本機のクリック感は「強い」です。 クリック全体の押下圧が低いため、弱いクリックでもコントラストが強く目立ちます。 なので、クリック「感」は強く感じます。
そしてこのクリックのポイントがストロークの上部にあり、押下圧が十分に軽いので、 最初のクリックを越えるとあとはキートップの自重で勝手にキーが沈むかのような感じを受けます。

この「キーにちょっと力を加えるとまるで吸い込まれるようにキーが沈んでいく」のがRealforceの特徴。 ただ軽いだけのキーボードではなく、 軽い上にきっちりとしたタクタイルを与えるため、「打ちやすいキーボード」なのです。

また、静電容量式に由来するラバーカップの絶妙な特性に注目が集まりやすい本機ですが、 スライダ・スライドレール(東プレはプランジャ・ハウジングと言っています)の作りの良さも 注目したいところです。

Realfoceな打鍵感、 フカフカを通り越したスカスカ感と、それでいて作りの良さから来るスライドや底付きのキレ、クリア感。 この「澄んだ」打鍵特性の中で初めて自己主張できる、弱いけれどハッキリとしたクリック感。 これをあやつって、千切りするときの包丁とまな板のようなリズムで コッコッコッコッと入力するとき、本当にしみじみと「ああ、入力しやすいわぁ」って思います。

さて、このRealfoceスイッチ、非常に良いモノなんですが、 惜しむらくは打鍵感に「華」が足りないんです。 気持ちよさが今一歩足りないというか、手応えのなさというか、非常に地味〜っな印象をを受けるのも事実で、 時々ふっと、他のキーボードを使いたい衝動に駆られてしまいます。

同じ東プレスイッチでもHappy Hacking Keyborad Proには華があります。 つまりちょっとだけクリック感が強いわけで、 HHK Proの打ちやすさと打鍵の「華」を兼ねそろえた打鍵感は、 猫は最強の打鍵感だと思っています。

ですが後発の本機にその打鍵感を採用しなかったと言うことは、 そこら辺に東プレの、Realfoceの「入力のしやすさ>入力の気持ちよさ」という 徹底したポリシーがあると思います。

RealFoeceは良くも悪くも「プロの入力デバイス」なんですね。

正当派ということ、脇役ということ。

猫がRealforceについて語るなら是非とも言及したいこと、 それはこのキーボードが「究極の正当派」だということです。

静電容量スイッチだなんだと騒がれても、このキーボード、結局はラバードームのキーボードなんです。

究極のラバードームだけれども、CherryのMXスイッチや IBM Space Saver のように 「同じキーボードという概念でくくってもいいものか?」と思わせる別パラダイム感はありません。

打鍵感のパラメータは究極のバランス型で、どこかを捨ててどこかに注力したようなピーキーなチューニングはいっさいされていません。 全てのパラメータを底上げした感のあるスーパーキーボードといったところ。

また配列も正当派、キーボードのデザインもまさに「絵に描いたような」キーボードです。

もちろん、これだけ高みにあるキーボードです。 打鍵感は「普通」じゃありません。このキーボードの打ちやすさは格別です。 また、全てにおいてそつが無く完璧な作りの良さを味わえるというのは 非常に幸せだわ、と思います。

ん〜、上手く表現できないのですが、このキーボードは「信じられないくらい凄い秀才」ではあるけど、 「天才」ではないといったところでしょうか?
あえて「天才」に踏み出そうとしないそつのなさも本機の魅力です。

もう一つ、本機はこれだけユニークな打鍵感なのに、「個性的」でないのです。

たとえばIBM Space Saver、あの強力な個性は「思考」におっきな影響を与えます。 CherryのMXリニアもそうです。NMBのRT6652やKey Tronic のE0300とかも、そういう傾向はあります。
逆に「没個性」な富士通高見沢系打鍵感は、 個性を埋めるために澱んでしまった感も否めないというか、 カセットテープで聞く「無音部」のように、白というよりは均一な灰色といった方がよい打鍵感です。

しかし本機は指に「主役感」を与えないギリギリの一線で踏みとどまった感があります。 (逆に HHK Pro はここを一歩踏み出しています。) この「主役」「脇役」の境界線をこれだけハッキリ見せつけるキーボードは他にないというか、 猫はこのキーボードに出会うまでこの境界がこんなにハッキリした「線」だとは思ってませんでした。 (もっと曖昧に遷移するものかと思ってました。)

悪魔でキーボードは脇役。それがRealforce流。
有能で主役をはれるクラスのモノがワザと「脇役」に徹したときの何とも言えない「凄味」があります。 なるほど、これがプロのキーボードですか。

究極の脇役。ねぇ、みなさんも是非手に入れてみたくなりませんか?

各部の詳細

背面 背面・・、の前にお断り。
今回のレポートは言いたいことのかなりの部分を鍵盤バカ一台さんの レビューに先を越されてしまいました。(く、くやしいっ) なんか似たようなこと書いてありますが、ご了承くださいませ。

背面は特に飾ったところもなく・・。と言いたいところですが、 このキーボードが真に使う人の身になって作られていることが 解るところでもあります。
ラベル ラベルです。
これまでの東プレのキーボードとは違う形態になりました。

ちなみに「89」の部分も後から印字されています。 いろいろ先のことが楽しみになりますね(笑)

S/Nは・・、残念。鍵盤バカさん家の36番に大きく負けてしまいました1(TT)
チルトスタンド パチッっと立つチルトスタンドはシンプルながら丈夫で、なかなか良さそうな感じです。
ゴム足 話題のゴム足です。

チルトスタンドを立てた時と畳んだ時用の二つが付いています。 この配慮故、本機が打鍵中に動いてしまうことはまずありません。

ちなみに下にあるツメは指で簡単にはずせ、それだけで簡単に筐体をオープン出来ます。 この開けやすさは特記ものです。
ケーブルガイド Realfoce106からの改善点として、ケーブルが両サイドだけでなく、上からも 出せるようになりました。とても細やかな心配りです。

写真左に見えるくぼみは Realforce 89Uで追加されるDIPスイッチがくると思われます。
ステップ・スカルプチャ ステップ・スカルプチャのキートップ とても打ちやすそうなステップ・スカルプチャ形状です。
結構豪快に湾曲してますね。

キーを外してならべると、カーブどころか高さが大きく異なっているのにもビックリです。
Winキーなし 見ての通り、本機にはWinキーとAppキーがありません。

これはRealfoce106譲りなのですが、猫的にはAppキーはともかく Winキーは欲しかったので複雑な気分です。

でも「無いものがある」という感覚こそRealforceに「解ってるなぁ」と思うところ。
キートップを外す キートップを外してみます。

板金に固定された 黒いスライダ、スライドレールのユニットが見えます。

ちなみに分解してない状態でもキーとキーの間にちらりと鉄板が見えるのですが、 これが格好いいんですよ♪
キートップを外す、その2 今度は斜めから見てみます。

結構太めの筒状のものがスライダです。 しっかりとユニット化されたスライダとレールが東プレのクリアな打鍵感の秘密です。
キートップ キートップは非常に細かい梨地状に成形されています。 このキートップは硬質感のあるなかなかエッジの気持ちいい成形です。
スペースキーを外す スペースキーを外すと・・、あれま、スタビライザが無い。
スペースキーの裏側 というわけで裏を見てみると、実はスタビライザは、ハウジング(スライドレール部)内側にもうけられてるんです。

これは結構ビックリなんですが、スライドレールが一体成形されていない本機では スタビライザのガイドを鉄板にもうけなければならない所。
だったらハウジング無いに納めてしまえ、というのはとっても合理的です。
筐体を開ける 筐体を開けます。
ネジ3本で止められているように見えますが、実はプラスチックの爪で しっかり止められていてネジを外してもしっかりと止まったままです。
猫はゴム足をはがしたりしてしばらく隠しネジが無いか探してしまいました。

裏はホントにフタといった感じで、筐体上面にぎっしりつまっています。
筐体上側 筐体下側 ちなみに本機は筐体はあくまで「もなかの皮」に過ぎない高級機にありがちな構造です。

ケーブルのコネクタを外せばネジ止めもなにもされていない内部フレームはあっけなく外れます。
Winキー部のカバー Winキーが無い部分のカバーです。

表から見ると別パーツっぽいモールドになっていますが、ケース上面と一体形成です。

ケーブル固定具 ケーブルの引っ張り断線を防ぐ部分です。

こちらは特別なケーブル形状にしたりはせずに普通に巻き付けて断線を防いでいます。
内部フレーム 内部フレーム(キー排除) さて、もなかの餡です。

見ての通り、このままでも十分キーボードとして運用可能。

せっかくですので、キートップを全部外してみると、これまたシンプルです。
Realforceのラバードーム・静電容量スイッチ式は、 別にスライドレールをメカニカルスイッチのように 一個一個別成形にしなくても良いハズなのですが、 そこはこだわりなのでしょう。別成形されたスライドレール(ハウジング)が 一個一個板金のベースに固定されています。
フレームを横から なかなか厚めの板金とプリント基盤のサンドイッチに挟まれたハウジング部が とても丈夫そうです。
板金のラベル 東プレのキーボード共通の工程管理用らしきラベルです。
素直に読めば板金・フレーム部が組み上がったのは2003年10月16日でこれはその186番目、 といったとこかしら。
パターン(裏) 基盤のパターンです。
丸い状のパターンを描いているのが面白いです。

ちなみに、白い円の中にあるネジが板金にあるネジ受けとの、 白い矢印で示されてるネジがハウジング(スライドレール部)のプラスチックに 止められているネジで、これらを全部外せば基盤を外すことが出来ます。
プリント基板のラベル プリント基板にも工程管理ラベルは貼ってあってこちらは10月20日143番目といったところ。

プリント基板に書かれた「39-ND-100」はたぶんこのキーボード「ND0100」を示すもの。 DG03B0の印字「39-DG-0103」の違いに比べると素直な方です。
フレームオープン いよいよネジをはずして、餡の部分を分解です。 (東プレ静電容量式の組み立ては面倒だから、分解には気力がいります。)

開くとラバーシートとコニックリングは基盤のほうにくっついて来ちゃいました。 別にラバーシートは基盤に接着されているわけでもなんでもないので、 綺麗に全部くっついていくなんて珍しいです。
なんか茶柱がたったような気分。
押下圧調整 指毎の押下圧調整がリアルフォールのウリですが、どうやら押下圧毎にシートが違う模様。

ふみ、なんかEscキーは特別なのね(これが55gなのかしら?)とか、 小指で押すと言ってもEnterとかShiftは45g(っぽい)なのね、とか いろいろ興味深いのです。
ラバーシート 中でも一番興味深いのは、45g→30gの2段階だとおもっていた文字キー部ですが、 どうも、もう一クッションありそうな構成になっていること。

シート構成を見ると薬指部は別の押下圧っぽいですね。 一体何gなのかしら?

それにしても、「はさみで切りました」って風なラバーシートは 東プレらしいです。
ラバーの厚さ 薬指用の部分と小指用の部分を比べると、 一段へこんでいる部分(ネジを通す部分)のよれよれ度が違います。

断面をみてもよくわからないのですが、どうも薬指用の方が小指用よりも 厚そうです。
ラバーカップとコニックスプリング ようやくラバーカップの下です。

リニアな静電容量変化を作り出すコニックリングと、ラバーカップです。 当たり前ですが、ラバーカップにはメンブレンスイッチを押す突起がありません。
東プレによるとこの突起の有無はカップの座屈特性に大きな影響があるそうです。
スライダとスライドレール スライダとスライドレール 一方のスライダ・スライドレールはこんな感じ。

スライダには2本の足がありこれがゴム椀をまたいでいるため、底付き時にここが基盤に「コッ」と当たり、 非常にキレの良い底付きを演出します。

足とレールの接点も点(というか線)になるように成形されています。 この精度の高そうなスライダとレールがクリアなスライド感を作り出す訳です。

ちなみにキーを戻した時の口実な「チャッ」という音はスライダの上端ととレール(ハウジング)の天井が 当たるときに出る音だそうです
プリント基板 パターン Realforce 106と違い、基盤が紙フェノールからガラスエポキシに変わりました。

Realforce以前はガラスエポキシだった(Qwerters Clinic 6/17の記事)そうなので先祖かえりとも言えますが、その心はいったい何かしら?
ちなみにガラスエポキシは紙フェノールに比べ強度に優れ、吸湿による寸法変化も少ないです。 特に強度は打鍵感にどれくらい影響を与えるのか気になるところ。

東プレといえばDG03B0が2003年春に基盤の変更で型番が変わりましたが、 もしかしてこれも紙フェノール→ガラスエポキシに変わったのかも?
コントローラ コントローラチップです。

「ND0105」というシール(なんだかこれも微妙に型番がちがうぞ)をはがすと、でっかいNの時が。
フレーム側にラバー フレーム側にラバーシートを移しています(組み立てです)。

コニックリングが美しい。
ラバーカップを繋ぐ溝モールドもなんだか面白いです。
Winキーのパターン WinキーとAppキーの無い本機ですが、 基盤状にはCtrlとAltキーの間に左右1キーづつのパターンがあります。
(基盤上には「90A」「90B」と印刷されています)

これはひょっとするとひょっとするかも・・・。実験です!
Winキーを押してみる と、いうわけで、ラバーカップとコニックリングを上にのせた状態でPCにつなげて押してみました。

結果は見事にスタートメニューが開きました。Winキー機能は実装済みです。 ちなみに右側のパターンを押してみるとコンテキストメニューが開く・・。 というわけでAppキーでした。(右Winキーはオミットされている、ということですね。)

スイッチさえ入手できれば簡単に「Realforce91」へ改造出来ちゃいますね。
スペックシート 押下特注 オマケ。

パッケージのスペックシートです。 よぉく見ると謎のスペック「押下特注(おうかとくちゅう)」が(笑)

発見されたのは鍵盤バカさんで、 猫もこのレビューを見るまではまったく気が付きませんでした。

ヤフオクでイイお値段が付きそうですし、これは初回限定特典と考えてよろしいでしょうか? >東プレさん。(笑)
グラビア 文句のつけようのないキーボードといいますか、 非常にバランスに優れたキーボードです。そしてテンキーレスキーボードファンの 夢の結晶でもあります。

「キーボード脇役主義」な東プレ思想を猫は理解しているつもりなのですが、 それでも「華」が欲しくなるのは人情です。特にHHK Proという具体例がある今では、 あっちの打鍵感のRealforce 89が欲しいというのが正直なところ。

とはいえ、猫のお仕事キーボードはこれでキマリと言ったところ。 これで修羅場も乗り越せそうです。

総合評価

キートップの手触り エッジのたった感じが気持ちいいです。
打ったぞ感(クリック感) 明朗だけど弱い。今一歩華が足りないけど実用十分と言ったライン。
省指力 抜群です。
対腱鞘炎 配置はごく普通ですが、キーの特性からいってこれも抜群でしょう。
コストパフォーマンス 値段分の価値は十分あります。が、やっぱり高い。
三猫のおすすめ度 ★★★★★