キーボード個別面談

Plat'Home FKB8579-JIS

Unicomp UNI04C6
種類 日本語72キーボード
メーカー Plat'Home
キースイッチ メンブレンシート
アクチュエータ ラバードーム
キートップ印刷 レーザー印字
コネクタ PS/2・Sun・ADB

Enterキーだって要らないの。

突然ですが猫は Emacs というテキストエディタを愛用しています。

EmacsはUNIX畑で人気の高いテキストエディタで、 プログラミングで柔軟すぎるほどカスタマイズ出来ることとか、 豊富なメインキーと制御キーの豊富なコンビネーションなど とにかくアクが強くて使いこなすのに労力がいるけれど、 慣れるととても心地よいエディタです。

特に鍵盤ファンの立場から言うならば、 CtrlとAltとメインキー以外なにも要らない操作性 ――カーソルキーやPageUp/Down、Deleteキーすら必要がない―― は素敵です。

ホームポディションから少しでも離れるキーは なんでもキーコンビネーションで入力してしまうのには、 「なにもそこまで・・・」 と思ってしまいがちですが、 なかなかどうして、実際にそういう操作に浸ってしまうとこれは想像以上に快適です。 猫も、Emacsにはまる前は 「ファンクションキーや、Delte、Page Up/Down くらいの距離なら 別に指を伸ばしたって大したことじゃないのにねぇ」、 と思っていたのですが、 一度ホームポディションからまったく指を外さないキーボード生活に浸ってしまうと、 これが想像以上に快適で、 いよいよEnterキーやBackSpaceキーに指を伸ばすのすら億劫になってきます。 う〜ん、人間どこまでも怠惰になれるものですねぇ(^^;

そんな生活をしていると「CtrlとAltとメインキーだけのキーボードで十分っ!」 なぁんて思えてくるわけで自然に Happy Hacking Keyboard に誘導されて しまうわけです。

うーん、なるほど HHK がロングセラーな訳ですにゃ〜。

Plat'HomeのHHKキラー

そんなこんなで猫は普段 Happy Hacking Keyobard Professonal を使うことが多いのですが ひょんな事情からHHKライクだけど日本語なキーボードが必要になりました。 けど、HHK Pro には日本語モデルは無いですし、 Lite2 は配列は申し分ないものの、キータッチがいまいちピンとこないのです。 う〜ん、こまった。

「もぅ、英語・日本語でキー配列変えるからいけないのよ、昔の人っ!!」と 八つ当たりしたところで始まりません。 せめて HHK2 くらいのキータッチにならないかしら・・と思う脳裏に 一つのキーボードがひらめきました。 そう、HHK2 と同じ富士通高見沢コンポーネント(現:富士通コンポーネント)の ODM機、 「偽HHK」とか「HHKキラー」とかの呼び名で親しまれている(?) ぷらっとホームの秘蔵っ子キーボードこと、 FKB8579の日本語版です。

――ああ、やっと話がつながりました。(^^;

富士通らしからぬキータッチ

――と、言うわけで、今回の個別面談は HHK2 と同じ富士通コンポーネント(旧 富士通高見沢コンポーネント)製の、 HHK似なんだけれどカーソルキーとかパームレストが付いてたりするキーボードこと、 ぷらっとホーム FKB8579 です。 長い前口上、ごめんなさいです。

さて、「日本語HHK」という枠のなか、 デザイン、配列、USB接続できることなど 多くの面でLite2が 勝っていながら、 それでも本機を選んだ理由は一重に 富士通高見沢キータッチを求めたからなのですが、 いざ本機を打鍵してみると、あらあら、なんとも、 富士通高見沢らしかなぬキータッチです。

富士通高見沢といえば、一言で言えば 打ちやすいけど気持ちよくないキータッチ。 疲れにくくて高速打鍵や同時キー押下なんかに適しているけれど、 一方でメリハリがなくふにゃふにゃししていて、すこしかさついた打鍵感は タイピングに快楽を感じません。 趣味性に欠けた本当のお仕事キーボードです。

しかし、本機は富士通高見沢製にしてはめずらしく クリック感と反発力の強い、ポコポコとした打鍵感になっています。 疲れにくいソフトなキータッチをベースに、 メリハリのきいたクリック感がミックスされた本機のキータッチは 打ちやすさと気持ち良さのバランスのとれた秀逸なキータッチです。

ゴムの絶妙な弾性は、トランポリンのように指を楽しくはじけ上げます。 この心地よいラバードームの弾力にのって、リズミカルに 「ぽこんっぽこんっ」と入力するのはとても楽しいし気持ちいいです。 この打鍵感の方向性は、富士通系というよりはむしろ IBM Space Saver II KeyboardAcer 6516-Mに近いです。 富士通高見沢らしい若干かさつく感じが残っているので、 その分気持ちよさは減じているのですが それでもラバードームの感触を生かした「弾む打鍵感」では、 トップクラスのできばえです。

富士通らしい富士通キーボードに比べると やっぱりちょっと疲れやすいのですが、 ここはトレードオフといったところ。 少なくとも猫は結構好きな打鍵感です。

富士通高見沢な「かさつき感」が高級感をスポイルしちゃっているのは残念ですが、 この素敵な打鍵感は十分 Lite2 へのアドバンテージになると思うのです。

ちょっとストレスなキー配置

HHKキラーということで、 決して単なるHHKのクローンではない本機は キー配列に独自のアレンジがなされています。 いまでこそ Lite2 で本家にもやられてしまっていますが、 発売当時大きなアドバンテージだったカーソルキーの追加や、 左右いっぱいまでのばした最下段のキーや Mac で嬉しい電源キーの追加など HHKの上を目指そうという心意気がなんだか嬉しくなってしまいます。

さて、本機のウリであるカーソルキーですが、 無いと不便と感じる人にとってはこのプラスαはとても 有り難いものですが、 このカーソルキーは右手小指の付け根に当たってしまうのがいちいち鬱陶しいです。 他に置き場所が無いとはいえ、正直言うかなり邪魔な位置にです。

この問題は付属のパームレストを付けることで キーを埋もれさせることで軽減されるのですが、 猫としてはHHK Lite2のように元からキーの高さを低くするとか して欲しかったところ。 (もっともHHK Lite2 はキートップ一体型の かなり廉価な構造を取っているからキーごとに幅や高さを変えられるのですけれど)

もう一つの問題が、 最前列のキーが多すぎということ。

本機は日本語キーボードということもあって 最下段のキーがかなりせせこましく並んでいます。 これは日本語を選んだ以上しょうがないことと思うのですが、 それでも AT互換機用、Mac用、Sun用のキーが全部並んでいて どれかのマシンにつけると必ずどこかのキーが遊んでしまうのは 頂けないわぁと思います。せっかくの「必要最低限のキーだけ残す」ポリシーに 瑕を残してしまいます。 特にCtrlを優先する本機の思想から言えばAltやMetaキーの場所や押し心地には こだわって欲しかった所のよねぇ。

良いキーボードを選べる幸せ

なぜだか安い偽物というイメージがつきまとう本機ですが、 実際は HHK2 クラスの品質を持った 高品質なキーボードです。 板金のはいった剛性の高いボディに、 打鍵の気持ちよさを加味した秀逸なキータッチ、 そしてニッチのさらにニッチを奪うキー配置等、 野心的なキーボードです。

Happy Hacking な配列の精神は、「使わないキーを省く」こと。 UNIXなハッカーさんにとって、必要なのは押しやすいCtrlキーと メインキーだけ。 使わないモノを省くと道具は使いやすくなります。

しかし、「使わないキー」というのは、 人それぞれのPCの使い方で変わります。HHKでは、 「普段は使わないけれど万が一使うときのための救済手段」として、 Fnキーとのコンビネーションがありますが、 それがその人にとって良く使うキーであった場合、 とたんに「使いにくいキーボード」に変わってしまいます。

猫はHHKのカーソルキーまでも不要という考え方には 深く賛同するのですが、カーソルキーが要る、 日本語キーボードであって欲しいというニーズは やはりあります。 HHKなラインナップではそのようなニーズは ヒエラルキーの 下の方に押し込めてしまっていますが、 キー配置のために打鍵感を選べないのは不幸なことです。 そういった不満を解消してくれる本機の存在を 猫はとても愛おしく感じるのです。

日本語でHHKで打鍵感のよいキーボード。 これを満たす本機を猫はもう手放せません。

各部の詳細

上面 見ての通り Happy Hackingなキー配置です。基本的に似ているのですが、 色遣いや上部のアーチ状のラインなど、HHKに比べ クールさに欠けます。
多分コレがこのキーボードがもてはやされない一番の理由のような気がします。(^^;
背面 本機のケーブルは基本はPS/2ですが、ケーブルを繋げ変えることで ADBやSunコネクタにつながります。というわけで、その接続部を格納する 窪みがあります。

また、富士通高見沢なキーボードですが、背面がカーブしてなし、 固定爪の成形穴もありません。・・・と言うことは。
ラベル ラベルです。 型番が FKB8579-JIS、パーツナンバがN860-B579-T051、 リビジョンが 03A です。

FKB8579にはには英語キーボードな FKB8579無印、USB・英語な FKB8579-USB、 親指シフトな FKB8579-661EV があります。

ちなみに親指シフト機はキー配列もキータッチも全然違う仕上がりで、 バリエーションというよりは姉妹機と言ったところ。
チルトスタンド チルトスタンドは富士通高見沢キーボードおなじみのもの。 ゴム靴を履いていたりはしないのですが華奢でもない実用的なものです。
コネクター いろんな延長ケーブルにつながるコネクタです。物理形状はPS/2とおなじ ミニDIN6Pです。その下に見えるのが設定スイッチへのカバーです。
DIPスイッチの蓋 カバーは説明書によるとピンセットで外してくださいとのこと。 デフォルトのPS/2接続以外はここをいじる必要があるのですが、 う〜ん、普通の人はピンセットを常備しているのでしょうか。
DIPスイッチ 見ての通りスイッチは「PS/2」「SUN」「MAC」の切り替えOnly。

せっかくスイッチを付けるのだからもう少し細かい設定が出来ればと 思わなくもないのですが。
パームレスト パームレスト裏 標準で付いてくるパームレストです。

裏から見ると中はスカスカですがきっちり3点をゴム足がついた しっかりしたモノです。
パームレストのコネクタ パームレストを接続 本体とパームレストの接合部です。 パームレストから伸びるなんだか頼りなさげなアームを 本体にパチッとはめ込みます。

実は外し方にコツがあって、足を一本づつ パームレストを上に持ち上げるようにしてから 水平に引っ張ります。

・・・という風な手続きを踏まず力任せに外そうとすると このパームレストの足は いとも簡単にポキッといくので要注意です。(^^;
パームレスト付き パームレストを装備した雄姿です。 本機らしいりりしい姿ですけれど、小型がウリの本機には ちょっと 大きくなりすぎるような気もしないでもないです。
パームレスト付き 側面 本機のパームレストは、実は手を置くのに邪魔なカーソルキーを 埋もれさせる効果があります。HHK Lite2はホントに低いキーですが、 本機は富士通系共通のスライダーを使っているので そういうことが出来ない、その代わりです。
キー左側配置 本体左側のキー配置です。うん、CtrlがAの横というのは良いことです。

だた、とても困ったことに、本機のキーは PS/2、ADB、Sunのすべてに対応させるため、 最小公倍数なキーを乗せています。

PS/2接続では「◇」、ADB接続では「半角/全角」「無変換」、 Sunでは「半角/全角」が死にキーになります。
キー左側配置 右側です。
同様に PS/2で「ひらがな」「日本語On-Off」、 ADBで「変換」キー、が死にます。

凄い窮屈なキー配置になっているので、 こういう無駄なキー配置はちょっと「う〜ん」と思ってしまいます。 それにしても、UNIXユーザのためのキーボードなのにAltが押しにくいのは ちょっと本末転倒かも(^^;
←それなら英語配列使えとつっこまれそう・・。
側面 サイドビューです。きれいなカーブド・スカルプチャです。
キートップを外す キートップを外します。

富士通高見沢コンポーネント製キーボードの特徴的な 摺動グレード樹脂のスライダーです。 今時のキーボードではすっかりキートップを一体形成になってしまったので、 富士通高見沢のキーボードはとても貴重な存在なのですが、 その割に高級感がないので損しているのよねぇ。
Tabキーの裏 Tubバーの裏っかわです。 スタビライザ受けも摺動グレード樹脂製です。
Enterキーの裏 ただし、EnterとSpaceは普通の富士通高見沢キーボードと同じ、 キートップに直接スタビライザの針金を受けるしくみです。 こちらはEnterキー。
スペースキーの裏 そしてこっちはSpaceキー

スペースキーはキートップの板状のガイドを受けるレールもあります。
電源キーの裏 電源ボタン。MacやSun仕様では電源のON/OFFが出来ます。

誤動作防止用にスプリングを使ってキーをとても重くしています。 でも、最初のモデルでは このスプリング付いていなかったようで。 ・・うっ、なんて恐ろしい・・・。
スライダを外す スライダと、スライダレールです。
スライダ 富士通高見沢特有のスライダ部です。 二本の足が特徴的です。この足がスライダを筐体からはずれないように し、底付きのときのストッパにもなっています(多分)。
カーブド・ストラプチャ 本機は底板ごとキーをカーブさせるカーブド・スカルプチャです。

多くのキーボードはPCB基板や筐体形成の都合上 各段のキートップ形状を変えてキー段差をカーブさせているのですが、 キーの打ち込み方向までカーブさせられるカーブド・スカルプチャの方が より理想的です。 でも、実際カーブド・スカルプチャなキーボードは少ないです。
筐体を開ける 筐体を開ける 筐体を開けます。

筐体後ろ側の爪を外してこんな感じで持ち上げます。 富士通高見沢製のキーボードは 爪で止められているのであけるのが大変です。(TT)
留め爪 後ろ これが爪受けノブ分。 ヘラのようなもので 持ち上げながら外します。
留め爪 前 手前側はこんな感じの突起ではめあわせてあります。
ケース下面 筐体下側。 FKB8740みたいに 筐体下側がカーブド・スカルプチャの底面になる構造ではなく、 純粋にたんなるカバーです。
ケーストップ 中身です。

これだけでもキーボードとして機能しますし、 意外にずっしり重いです。・・と、いうことは。
中身 裏から そう、本機は板金のストッパー付きです。 15本のネジでしっかり筐体上面に止められています。

うーん、まるでModel Mのよう。 印象のチープさとは裏腹に、 なんとも贅沢なキーボードです。
中身 横から 側面です。そんなこんなで、 板金自体がしっかり沿っています。
PCB コントローラ基板など。 いろんなマシンに対応とあって さすがにちょっと大きめなコントローラ基板です。
コントローラ コントローラチップ。 一応型番は「83C154SB24T」のように読めます。

「(C)OKI'85」 と 「(C)INTEL'80」 の表記が興味津々です。
ブザー 圧電ブザーまでついてます。うーん、結構なお手前で。
スイッチ基板 設定スイッチの基板です。 グランドのついでにネジ止めされています。
板金 板金部です。本機のクリック感のある キータッチは多分ラバーカップのチューニングによるものですが、 この板金によるストッパも良好な打鍵感にしています。
板金横 板金を斜め横から。

結構厚みのあるしっかりとした鉄板です。
メンブレンスイッチ メンブレンシートとコントローラ基板です。

特に目立ったところのないメンブレンシートですが、 さすがHHKタイプだけあって、CtrlやShift、Altなどの 同時打鍵をしっかり処理できる疑似nキーロールオーバになっています。
ラバーシート ラバーカップです。

見た目は他の富士通高見沢鍵盤と同じようなラバーカップですが、 打鍵感のチューニングはかなり違います。
ラバーカップ ラバーカップの形状だけみると 他の富士通高見沢鍵盤と変わらないように見えます。 けれど、打鍵感はだいぶ違うのよねぇ。
ラバーカップ 裏 裏側から。

真ん中の突起がメンブレンスイッチの証しです。
スライダ 裏 スライドレールを裏側から。

レール部材を形成するためには、基面をカーブさせたまま成形するわけにも 行かないため、キーとキーの段の間に曲がりやすいところを作って 基面にギューッと押しつけます。
エンターキーのスライダ Enterキーの後ろ側はこんな感じです。 カーブド・スカルプチャなので、ここだけカーブを変えるため 切り欠きがあります。
スライダ 突いたところ 突いたところ。

二本の足は90年代の富士通高見沢キーボードの証しで、 ゴム足に着陸して快適な底打ち感を実現します。
グラビア 「廉価なパチもの」なイメージのつきまとう本機ですが、 定評のある富士通高見沢キーに しっかりとネジ止めされた板金ストッパと、 そのチープな外観とは裏腹に本機はとても贅沢な作りのキーボードです。

カーソルキーの装備や 疲れにくさよりもタッチの気持ちよさを優先するなど 打鍵感もキー配列も、 本機のチューニングはより「一般受け」する方向―― 「HHKほどストイックじゃないけれど、よりは間口の広い」 まさに「HHKキラー」です。

反面、HHKの持っていたポリシが失われているのも事実で、 「キラー」と思えるか「モドキ」にしか見えないかで 本機の評価は大きく変わります。

<総合評価>

キートップの手触り 余りよい方ではないです。
打鍵の気持ちよさ 非常に良い線行ってるのですが、品と艶っぽさが足りないのが玉に瑕。惜しいです。
省指力 疲れやすい方ではないのですが、本来の富士通高見沢路線に比べるとやっぱり疲れやすいです。
対腱鞘炎 比較的つかれにくいけれど、キー同時押しを前提のキーボードはあまり腱鞘炎にやさしくないような気がします。
コストパフォーマンス 安そうな外観ですが、実はかなり贅沢なキーボードです。特殊配列であることも加味すると、かなりコストパフォーマンスは良く感じます。
三猫のおすすめ度 ★★★★
気持ちよい方向に振った打鍵感と カーソルキーを装備した間口の広い配列は、 HHKからストイックさを除去したおもしろい色づけです。 「濁った」と嫌う向きもあるけれど、 猫はこの個性、なかなかおすすめだと思うのです。