キーボード個別面談

KeyTronic E03601 (E03601MSE-C)

KeyTronic E03601
種類 英語106キーボード
メーカー KeyTronic
キースイッチ メンブレンシート
アクチュエータ ラバードーム
キートップ印刷 レーザー印字
コネクタ PS2

KeyTronicのキーボード

DOS/Vmagazine誌のキーボード特集で触ってその打鍵感を気に入ってしまい「買わないわけにも行かないでしょう」と レビュー後速攻でお迎えにあがりました。お買い得セールで2,980だったのも嬉しい一品です。

このキーボード、仕様だけでなく製品パッケージで型番が変わるため、非常にわかりにくいのですが、 本機のキー部分を示す型番は E03601までで、その後に付く文字は成形色やコネクタ、パッケージングの差異を表します。

ちなみに今回購入したE03601MSE-Cがマウス付き、本体のみがE03601QUS201-C。 ブラックモデルがE03601QUS201B-C、 このほかに5ピンDINケーブルのE03601QUS101-Cが在ります。

兄弟機として打鍵感やデザイン・作りは一緒ながらエンターキーが逆L字じゃないE03600シリーズや、 デザインにこだわったLT-Disignerがあります

高級キーボードじゃありません。

このキーボード、見た目が古いIBMのキーボードにとても似ているため、 一見高級キーボードかと思いきや、手に取ってみるとかなりチープなキーボードです。

キートップの仕上げは悪く、ヒケやバリ、ランナーのゲート跡が目立ちます。レーザー印字の精度も今一歩。 また、肉厚の薄いキートップとスライダーとレールの遊びにより発生する「カチャカチャ」音はかなり安っぽさを感じます。

でもそんな見た目に反してそのキータッチはとても秀逸です。

まずは押下圧ですが、メイン部45g、小指・薬指部35g Shift、Tab、カーソルキーやファンクションキーで55g、エンターキー65g、 Ctrl、スペースキーなどの最下段とNumLockで80gと押下圧をキーによってチューニングしています。
KeyTronicのこだわりを感じる部分で、特にメイン部の45g/35gは軽いと言われるRealForceの40g/30gに迫ります。 スペースやEnterの重さは少し強すぎるきらいもありますが、 メイン部の押下圧シフトは変化をやや意識させるRealForceより自然で、 人差し指で「A」キーを押下したりしないとまず気づきません。

メイン部45g/35gと軽い部類に入る押下圧ながら、本機にはRaealForceと違いとてもハッキリしたクリック感があります。 とは言っても強すぎて入力に抵抗を感じることもなく、打鍵に華を添えています。

底付きもコトコトコトっと言う 硬質ながら堅すぎない感触で、かなり気持ちいいです。 ゴムを潰す嫌な感触がしないのは、スライドレール上端とキートップ裏面にストッパを兼ねさせ、 これらの衝突で底付きを感じさせる構造になっている為です。

キースライドのスムースさは本機の値段を考えると特筆モノで、明らかに一ランク上を行ってます。 粘りやひっかがり、摩擦感も皆無。スライダーとレールの遊びは大きいのですが、 スライドの感触に悪影響を及ぼすことはありません。
キーストロークも深めで、クリック感のチューニングと相まって本機の打鍵感にさっぱりとした感触を与えています。

キートップそのものに重厚感がないく、軽そうなガチャガチャ音がうるさいのが玉にキズなのですが、 打鍵感そのものにはゴムやプラスチックの弾性が出す「ノイズ」が感じられず、非常に爽やか。
深くてスムースなスライド、軽めに設定された適度な押下圧に華を添えるクッキリとしたクリック感、粘らずキレがありながら穏やかな底付き感のハーモニーは、 気持ちよくて疲れにくい打鍵感となり、文句のつけようのない仕上がりです。

欲を言えばキータッチにNMB RT6600系以上のクラスが持つ「品格」が無いところが気になります。 本機の打鍵の気持ちよさ・打ちやすさは十分RT6000系を越えられるものがありながら、 落ち着きが無く地に足がつかない印象も受けるのも事実で、打鍵の品格はどうしても勝てないものがあります。

こだわりの内部構造

このキーボードの肝はスライドレールの設計にあります。

スライドレールはインナーフレームとして独立していて滑りやすく丈夫な樹脂で成形されています。
この樹脂は潤滑剤に頼らなくても良好なスライド精度を得られる 素材です。 高級キーボードでスライダに使われる素材ですが、キートップとスライダを一体成型できないためコスト高に結びつき、 最近のキーボードではほとんど用いられません。

本機ではスライドレール側をこの素材とすることで良好な打鍵感を得つつもコスト高を押さえています。 これは同じKeyTronic製のMicrosoft Natural Keyboard Eliteと一緒ですね。

ただ、このキーボードはさらに一歩上を行っていて、 平板で成形したインナーフレームを、カーブした筐体下面に14箇所の爪で湾曲させながら固定することにより、 キートップを全段共用しながらカーブド・スカルプチャを実現するなど、 このスライドレールの設計が「良い循環」を生み出し、コスト安と良質な打鍵を実現しています。

このように打鍵に影響する部分はかなりこだわって作られているのですが、 その他はかなりコストに気を遣っているキーボードです。 ネジは一本も使っていない、キートップの形状は全部で12種類と最低限、 メンブレンシートは上面と下面で一枚のシートといかにしてケチるかに 全力を尽くしている感もあります。

かと思えばチルトスタンドにゴム靴を履かせたりと妙なこだわりがあって 本機の位置づけを非常に迷わせます。

KeyTronicの矜持

昨今はレールと筐体、スライダとキートップを一体化するのが当たり前になってしまい、 一般の人が「高級」と思うようなキーボード(MSやLogitecなど)でもスライドや底付きに難のあるキーボードが多いです。

それでも素材の弾性を排除するのではなく生かす方向でチューニングしたり、 素材の精度不足や摩耗・摩擦の高さを潤滑剤を塗ることで回避したりと いろいろがんばっていて、 普段は気にならなかったりするのですが(特にMSはまとめ方が上手ですね)、本機のような「ちゃんとした」打鍵感を味わうとやっぱり違うなぁと思います。

反面本機は外観や仕上げという意味ではどうしようもなく、 アジア製のパチモノといわれても納得してしまうような出来は正直どうにかして欲しいと思います。 (特にキートップの立てるカチャカチャとしたブロック玩具のような軽い音はホントどうにかして欲しいです。)

「武士は喰わねど高楊枝」ということわざがあります。

中身でコストダウンしても外観にはそれを感じさせないというのは一つの美学だと思います。 でも本機の「中身さえ保てれば他はなりふり構わない」姿勢に猫はKeyTronicの矜持を感じます。

お金を掛けるべき所に掛け、省くところはバサッと省く。キータッチ同様になんとも潔いじゃないですか。 本当は、キータッチのこだわりこそ評価される世の中であってほしいのですが、 なかなかそうは行かないようです。

とはいえ、キーボードってここまでコストダウンしなくっちゃ やっていけないものなのかしらねぇ・・・。

もうすこし・・

本機はブラックモデルもあるのですが、実はベージュのほうが高級感があります。 普通ブラックは高級さ1割増に見えるもんですが、本機ではヒケや印字ムラなどアラを目立たせてしまいかえって安そうになっちゃうんです。

まぁベージュでも なんのかんのいいつつも遠目では立派に見えますし、キータッチも好みなのでとても気に入っています。

ただ、同社のもう少しだけコストを掛けたキーボードも触ってみたいなと思います。
本機のチューニングのほうがナチュキーEliteよりも好みなのですが、質感はあちらのほうが上です。
似たような外観で静電容量式のも存在したらしく非常に興味を覚えます。 (静電容量スイッチといっても東プレのものとは構造が違うため、過度の期待は禁物ですが。)

あとは日本語配列が欲しいです。猫の指は記号を日本語配列で覚えてしまっているので、 たとえ英語キーボードでも日本語キーボード認識で動かしてしまいます。 足りないキーは「えん」や「あんだー」、「ぱいぷ」だの単語登録してカバーするという とってもおバカなことをしています(笑)。

文章やHTMLならこれでもなんとかなるのですが、プログラムをコーディングするときはさすがにダメで、 一番使うお仕事に本機を使えないのがなんとも痛いところです。(TT)

何はともあれコストパフォーマンスは抜群の本機、 英語キーボードが大丈夫で、設置面積にゆとりがあり、そして音や外観を気にしないのであれば、 大変お勧めです。

条件いっぱいつけましたが(笑)、ホントにいいキーボードなんですよ。

各部の詳細

背面 まずは筐体裏面。
カーブド・スカルプチャなため 大きく弧を描いた底面が特徴的です。
ラベル ラベルです。

本機の「E03601MSE-C」はマウス付きパッケージ、 鍵盤のみの場合は「E03601QUS201-C」となります。
また、エンターキーが棒状の E03600シリーズもあります。
チルトスタンド 黒いお足に白いおくくが可愛らしいチルトスタンドです。

実際筐体の作りにかなりのコストダウンの後が見える中での ゴム靴チルトスタンドはかなり違和感があります。

無骨な外見にワンポイント入るこの可愛らしいスタンドは、とてもキュートですね。愛いやつです。
筐体オープン 早速筐体をあけてみます。

このキーボードはネジを一本も使っていないのであけるとはちょっと大変です。 筐体をあけるにはキーボード手前裏の5カ所の爪を外し、ファンクションキーの列を 全て外します。

キートップはインナーフレームについていて、筐体上面は単なるカバーに過ぎません。
カーブド・スカルプチャ フレームは筐体下面とハメ合わせるときに 段の境目で曲げられ、カーブド・スカルプチャを形成します。

かなり大きめのカーブを描いていて、なるほどここまで湾曲すれば、 スライドの向きもカーブする カーブド・スカルプチャの方が有利よね、と納得します。
キートップを外す キートップを外すと円筒系のスライダとスライドレールが見えます。

スライドレール側が滑りやすく摩耗しにくい樹脂で成形されているため、 このキーボードのスライドの感触はとても良好です。 この構造は MS Natural Keyboard Eliteと一緒ですね。

ただ、スライダとレールに少し遊びが多いこと、レールの肉厚が非常に薄いことから 安っぽいカチャカチャ音がしてしまうので、そこがちょっと残念です。
ナチュキーEliteとの比較 (参考:Microsoft NaturalKeyboard Elite) ナチュキーEliteとの比較です。
似たような構造を取っているにもかかわらず、ナチュキーEliteのほうは 本機のブロック玩具をかき回すようなカチャカチャ感は皆無です。
おそらくスライダもレールも十二分な肉厚を取っていること、 円筒スライダの回転防止突起が本機のスライダ側に1箇所から、 レールに4箇所、スライダに1箇所と大幅増量しているからではないでしょうか?
Eliteでは見事にカチャカチャとした感触を払拭し、質感は大幅に上昇しているだけに、 本機でもやって欲しかったところです。
エンターキー 本機は部品の共通化を狙ったところも散見されます。

このエンターキーもそうで、フレームが縦長、棒状のエンターキー用の スタビライザーバー受けを持っているため、逆L字エンターの本機では、 スタビライザーが縦横に二つもくっついています。
なんとも贅沢なかんじです。
キートップ全部外す キートップを全て外してみました。
見にくいですが、筐体下面に合わせて湾曲させるため14箇所の爪でしっかり固定されています。
フレーム フレームのみです。
曲がり癖が付いていますが、基本的に平面で型抜きされたものと解ります。

横から見るとよくわかりますが、スライドレールがとても長いです。 この素材とこの長さが本機のスライドのなめらかさを支えているんですね。
フレーム背面 裏側は真っ平らではなく、各段ごとにボックス状の梁がもうけられています。 これによりフレームをカーブ状に湾曲させても各段の精度は保たれる用です。

このボックス様の構造と湾曲した筐体仮面がしっかりハメあわせされることで、 キーボード底面の強度を作り出しています。
スライダー キーを底付きさせた状態です。 キートップの裏側がスライドレールの上端に触れてキーがストップします。

つまりこのキーボードのスライドストッパはキートップとスライダが兼ね、 これによりラバーシートを必要以上に押しつぶすことはありません。
底付き状態 この状態ではスライダの下端とフレームの底面がほぼ同じ高さになるのが解ります。

つまり底付きしたときは、スライダとスライドレールが両方とも筐体下面に押さえつけられるわけ です。
本機の堅すぎないコツコツとした底付きはここで生まれるようです。
フレームの下側 フレームを外してみます。

本機は全くネジをつかっていなく、組み立てるときは スナップフィットのプラモデルみたいで楽しいのですが、 分解するのは一苦労です。
ラバーシート 本機はキーによって押下圧が違うので、あけるまでは何枚かのラバーシートで 形成されているのかなと思っていましたが、意外にも一枚シートでした。 (ということは逆にかなりのワザものということですが。)

Caps Lockの所にLED用のパターンが見えるのが興味深いです。そういうバリエーションを考えていたか。 改造でつけられるかしら?
ラバーシートのパターン ラバーシートは表側にドームを囲むような土手パターン、 裏側にカーブド・スカルプチャの曲がる段ごとに土手パターンと、 押下時にドーム周辺が滑らないようにしています。
押下圧の可変 さて、本機注目の機構、キーによる押下圧の変化ですが、 やっぱりラバーシートで実現させています。

一見同じカップに見えても押してみると明らかに押下圧が違うのは面白いです。 写真は下側がスペースバー用で80g、上がメインキーで45gになっていて、 よぉく見るとラバーカップの肉厚が若干違うようです。 (この写真じゃわかりませんが)
ラバーシート下 ラバーシートを外すと、メンブレンシートとコントローラが姿を現します。
フレームとはめあわせる爪が目立ちますが、 ここまでくれば至って普通のメンブレン・ラバードーム機の構造です。・・とおもいきや。
メンブレンシート 本機のメンブレンシートは非常にめずらしく、上面・下面シートが一枚になっていて、 折り曲げてあります。

これとは別に中シートもあるのですが、そこまでコストを減らしたい!?と関心してしまいます。
シートを止めるゴム しかし接点シートに折り目を付けて折り曲げる訳にもいかず、緩やかに折り返しているだけですので、 シートの弾性でキーボード奥側のメンブレンシートが浮き上がろうとしてしまいます。
それを固定するためにラバーシートをポリキャップ代わりにしています。

なかなか面白いアイデアなのですが、この構造のせいで筐体の奥行きが大きくなってしまっていて、 手放しでは褒められないところです。
筐体底面 カーブドスカルプチャの為、大きく弧を描いた筐体下面。

ネジ止めの無い筐体ですが、筐体形状の大きな起伏の為 打鍵時に気になるような歪み方はしません。
プリント基板 コントローラチップは、COB実装されています。メンブレンシートとの接点は、 クリップ様の金属によって圧着がされていてちょっと不思議な方法です。
プリント基板裏 細長く結構大きめの基盤ですが実装部品はほとんどありません。 見えにくいとは思いますが、真ん中編に「Key Tronic」の文字が見て取れます。
グラビア 本機は打鍵感の非常に良いキーボードです。
華があるクリック感ながら疲れにくい打鍵で、底付きもスライドの感触も良好と かなりお勧めなのですが、 反面 強引なコストダウンによる筐体の安っぽさや、キートップの遊びによる結構うるさいカシャカシャ音など 気になる要素もあり、高級キーボードを夢見て購入するとがっかりするかもしれません。

結局本機もコストダウンの厳命から免れ得ぬ 今時のキーボードの 一つに過ぎませんが、 他のキーボードが「外観も打鍵感もそこそこ」なのに対し「打鍵感第一、他は二の次」という徹底さに 猫は深い共感を覚えるのです。

<総合評価>

キートップの手触り 梨地状のプラスチック。若干ヒケあり。
打ったぞ感(クリック感) 爽やかでハッキリとしたクリック感。とても良好。
省指力 公称45gの押下圧は比較的軽い力で押下出来る。スペースバーはやや重い。
対腱鞘炎 小指用のキーの押下圧を35gにするなどの対策が。
コストパフォーマンス 打鍵感からすると非常に良い。筐体のつくりは値段なり。
三猫のおすすめ度 ★★★★★